うまい医者とへたな医者
いつも混雑している待合室、ゆっくりと話を聞いていき、問診と理学所見から的確に診断する。検査や投薬は必要最小限、ムンテラで安心させて、だらだらと通院させない。また自分の専門外だと判明したら、さっさと他院を紹介する。一日に診る患者の数は限られ、出来高の積み上げのみでは大した診療報酬がつかない。あまり待ち時間が長いと、患者離れも心配である。
対照的に、忙しいからと診察券だけ置いて、他の用事を済ませてから、薬だけをもらいに来る患者や、毎日一向に変わらない治療を繰り返し、文句も言わずに世間話を楽しむお年寄りに、何度でも初診のごとく採血や画像検査をチェックする。最終診断は先送り、治療開始の遅れや合併症が生じれば、通院期間は長きにわたる。経営的には件数も保険点数もうなぎ上りである。普段は治療成績よりも患者の満足度を重視する。
このような二人の医者がいたとする。赤ひげタイプと実業家タイプと呼んでおこう。実際の臨床で、ここまで典型的な人物はいないであろう。しかしいずれも、ある意味でうまい医者であると同時に、ある種へたな医者である。冗舌な医者と寡黙な医者が時と場合によって、その立場が逆転するのと同様に。長年医者をやっていると、初診の患者であっても本当に何を必要としているのか、そしてどのようなアプローチで治療すれば満足するのか、問診や診察の中で読み取る技術を習得する。しかし必ずしも患者の希望が最良の医療とは限らない。
現在、総合医あるいは総合診療医の養成が叫ばれている。そのような診療科目が本当に必要かどうかを考える前に、日常診療で少し試してほしいことがある。多少うがった見方かもしれないが、常に二人の医者、すなわち赤ひげと実業家になりすまし、互いに自問自答してみてはいかがだろう? それこそが全人医療への入り口であり、プライマリケアの極意に通じる扉かもしれない。
(伏見・古家敬三)