【解説】 京都府は皆保険の守り手になれるのか?
府の医療計画見直し・国保保険者構想
国民皆保険の堅持方針を投げ棄てる社会保障制度改革推進法と消費税増税法をはじめとした、社会保障・税一体改革関連法の成立(8月10日)以降、中央政界は「近いうち」に総選挙を見越した政争・内部抗争に明け暮れたまま、第180通常国会の閉幕を迎えた。
一方、地方自治体では社会保障・税一体改革大綱の目指す医療・介護サービス提供体制改革(病院・病床機能分化、それと一体の在宅医療強化・地域包括ケアシステム構築)への作業が進む。この間、京都府は2013年度からの新医療計画策定に向けた作業を進めている。同時に市町村国民健康保険の都道府県単位一元化を目指す第一歩として京都府後期高齢者医療広域連合への参画方針を明確化する等、注目すべき検討が進んでいる。
一体改革大綱に基づく医療計画見直し
都道府県医療計画は5カ年の法定計画であり、現行計画は今年最終年を迎えた。国は13年度からの新計画に向け、通知(医療計画について・医政発0330第28号・2012年3月30日・厚生労働省医政局長)を発出し、見直しが一体改革大綱によるものと明記した。
現行の医療計画は、小泉医療制度構造改革時の医療法改正によるもの。医療制度構造改革は、国保都道府県単位化の先駆けである後期高齢者医療制度、特定健康診査・特定保健指導導入を梃子にした保険者による医療費管理の強化、都道府県に医療費適正化計画を策定させ、医療費の管理・抑制を担わせる等、医療費適正化路線の主要な枠組みを構築した。ここに組み込まれた医療法改正は、基準病床数設定による病床管理に加え、4疾病(がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病)5事業(救急医療、災害医療、へき地医療、周産期医療、小児救急を含む小児医療)ごとの医療連携体制構築を計画に記述させるものだった。これにより都道府県は、各医療機能を担う基準を設定し、基準をクリアする医療機関を計画に明記(ホームページ上、ex「中丹医療圏で脳卒中の急性期を担う医療機関は○○病院」)し、「地域連携クリティカルパス」の構築を目指し、急性期から在宅復帰までの入院医療機能の効率化を図るという新たな役割を担うこととなったのである。つまり、都道府県は医療提供体制の機能分化・効率化を進めつつ、医療費適正化計画の医療費抑制目標の達成を目指す主体となったのである。
新医療計画はそれをさらに展開させる。主な見直し内容は、?二次医療圏の見直しと疾病・事業ごとのPDCAサイクルの効果的機能による計画の実効性向上、?在宅医療を5事業と同格に位置付ける、?精神疾患を既存の4疾病に追加する−というものである。
京都府は医療審議会・計画部会で見直し議論
京都府は医療審議会の計画部会(根拠法令:医療法施行令第5条)で検討(第1回は6月15日開催)。また、精神疾患支援・歯科口腔保健・肝炎の各対策WGを設置し、議論を進めている。二次医療圏単位の「地域保健医療協議会」も開催されている。8月31日の医療審議会は公開され、新医療計画(案)が新旧対照表の形式で示された。しかし在宅医療の詳細や精神疾患支援等5疾病部分は未だ書かれていない。今後の議論に注目が必要である。
在宅医療強化路線の意味と本質的欠陥
在宅医療強化は、医療・介護サービス提供体制改革の幹である。国構想は、入院医療の機能分化・効率化を進めつつ、平均在院日数を短縮。早期に退院となる患者さんの増大を受け止めるべく、在宅医療・地域包括ケアシステムを強化するというもの。厚生労働政策統括官の香取氏は、国会で積み残した医療・介護改革について、今後「半年から1年かけて進める」とし、「入院医療については、病床機能の機能分化を行い、診療圏ごとに病院のネットワークで面的にカバーしていく。急性期では集中的に患者治療を進め、そこで余った病床は亜急性期、慢性期に振り向ける。全体として医療ニーズを再編成した部分のリソースは介護に回す。介護もできるだけ施設から福祉系、居住系サービスに持っていく」と語っている※1。そのための医療法改正も近く国会提出し、次々期の医療計画見直しへとつながっていく。その意味で、今回の見直しは在宅医療部分の先行実施といえそうだ。
国の通知は、在宅医療について?退院支援、?日常の療養支援、?急変時の対応、?看取りへの対応を行う医療機関連携の構築を打ち出し、加えて「在宅医療に積極的な医療機関」を計画へ位置づける方針が書かれている※2。
在宅医療の充実は必要である。しかし、国の方針には本質的欠陥がある。それは、開業医医療が支えてきた地域医療の実情への無知と無視である。診療所に求められる役割は在宅医療だけではない。初期救急、行政と連携した予防、学校医・産業医、診療所に来た患者さんの生活にまつわる相談や多職種との連携等、従来から診療所が担っている仕事が地域医療を支えている。在宅一辺倒の政策では、その屋台骨が弱体化する。地域医療の現実も見ないで提供体制改革が進められていること自体が、医療費抑制目的の国政策の限界である。
医療提供体制確保と保険者の役割が両立できるか
さて一方、京都府は8月31日、副知事や各市町村の副首長等が出席する後期高齢者医療広域連合と京都府の連携に向けた懇談会を開催した。先に府は、同懇談会の「検討会報告書」(6月)で、後期高齢者医療制度の運営主体である広域連合に参画する方針を明確化しており、会合はその具体化を目指すものと言える。
席上、府は「京都府民の健康と医療を守る新しい医療保険制度の構築を目指して」なるペーパーを示した。そこでは、目指すべき方向に「後期高齢者医療制度と国保制度を守り、国民皆保険の崩壊を防ぐため、?国の財政負担の引き上げ、?都道府県単位で一元化し、都道府県と市町村が一体となって支える仕組み」の必要性が打ち出され、2018年度以降に、後期高齢者医療制度・市町村国保ともに、都道府県単位での一元化を目指す方向を示した。広域連合への参画はその一歩である。
京都府が国民皆保険破壊路線に対峙してこそ
このように、京都府は医療計画見直しの一方、市町村国保への積極的関与を検討している。そこで注目すべきは、広域連合参画のメリットに「医療提供体制整備との連携」を挙げていることだ。
仮に京都府が国保や後期高齢者医療の運営主体となった場合、保険財政状況を睨みつつ、医療提供体制整備を検討する立場になる。保険財政を担う者は常に給付と負担のバランスを意識する。財政を安定させるために給付の伸びを抑えたいという意識が、必要な医療の提供というもう一つの役割を制限しないだろうか。既に介護保険制度では市町村が保険者となり、財政事情から必要なサービスを確保できない事態に陥っている。同じことが医療で起こってしまうのではないか。
国会成立した社会保障制度改革推進法は、従来の「国民皆保険制度の堅持」方針を放棄し、医療・介護保険の給付範囲の適正化を打ち出した。国が進もうとしているのは、すべての国民が公的医療保険に加入していなくてもかまわない、必要なサービスが保険給付されることにこだわらない、皆保険制度破壊の道である。
そのようなもとで、都道府県が国の方針にどこまで抵抗し、それを乗り越えた政策を展開できるかは、行政にとっても運動側にとっても最大課題の一つである。
給付抑制のためではない提供体制改革、国民皆保険を守るための保険制度改革、その実現を目指すことが京都府に求められる。その点で、府が国民皆保険の崩壊を防ぐため、国の財政負担の引き上げを提起していることは極めて重要である。京都府がその実現を目指す努力を貫徹しなければ、やはり皆保険破壊の同調者となってしまうだろう。
※1 メディファクス 2012年8月27日
※2 「疾病、事業及び在宅医療に係る医療体制について」医政指発0330第9号・2012年3月30日 厚生労働省医政局指導課長