【主張】診療ガイドラインと医療安全

【主張】診療ガイドラインと医療安全

 臨床の現場における最近のキーワードの一つは、「『ガイドライン』の花盛り」と言えよう。各疾患別のガイドラインは、欧米ではかなり以前より存在したが、従来我が国には自国民を対象とした大規模前向き研究が必ずしも多くなく、最近それらの研究成果の発表が相次いだこともあって、ここ数年の間に多くの病態別ガイドラインが発表されてきている。

 最近上梓されたガイドラインの中で、「JSH2009高血圧ガイドライン」は、患者層の厚さ故か注目度がきわめて高く、その説明会はどの会場も満員御礼状態であったことが記憶に新しいところである。一方で、専門家のみの理解にとどまらず、広く一般への認識が普及しているガイドラインとしては「AHA救急ガイドライン2005」が代表選手といえよう。同ガイドライン2000に引き続いて、我が国、欧米にとどまらず世界中の救急蘇生の指標として汎用されていることは周知の通りである。その他、健康保険の適応をほとんど度外視した先進的ガイドラインも存在するなど、枚挙に暇がない。

 「ガイドライン」は各医学会の理事等、その分野における専門家(専門医)が膨大な量の研究成果、それもできる限り客観的評価に耐えうるものの中から最新の知見を集約した結果といえることから、現時点における「最良の治療」を示しているともいえ、臨床医にとっての拠り所となりつつあることは事実であろう。

 さてその一方、各々のガイドラインをどの程度参考にするべきかという点では、議論が十分尽くされているといえず、ガイドラインに沿っていない治療に基づいて、悪しき結果となった場合についても考慮しておく必要があるのではなかろうか。たとえば、比較的最近発表された、「初期救急外傷ガイドラインJPTEC、JATEC」に準拠しなかった救急の現場における治療行為や、術後や長期臥床後患者への対応として最近話題の多い「肺静脈血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン」に則らなかった場合などを、「不十分な診療」と断じることが果たして正当なのか。この点に関しては、司法の判断に率先して医学会での早急な議論が待たれるところである。

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