「大筋合意」は最終合意ではない 内田聖子氏がTPP情勢を報告  PDF

 「大筋合意」は最終合意ではない 内田聖子氏がTPP情勢を報告

 TPP「大筋合意」が昨年10月5日に発表され、11月5日には膨大な量の英文テキストと附属文書が公開されたが、この時点で日本政府は「概要」を公表するのみであった。この2月に協定文書の署名式を12カ国で開く方向で調整されていることから、日本政府は1月7日にようやく「暫定仮訳」を公表。しかし、附属文書は公開されておらず、日本国民はいまだ全容から遠ざけられている。TPPは協定署名後も各国の批准(域内GDPの85%以上を占める国の承認)を経なければ発効しない。協会はこの協定が国民皆保険などに深刻な影響を及ぼすものであるとして反対の取り組みを行ってきた。そして、農業分野や労働分野などと共同するTPP参加反対京都ネットワークとしても、結成から3年さまざまな取り組みを行ってきた。引き続き批准、発効を行わないよう取り組みを強化する。

 TPP京都ネットは公開講演会を12月1日にハートピア京都で開催。「大筋合意」を巡る最新の情勢について、内田聖子アジア太平洋資料センター(PARC)事務局長にきいた。内田氏は「大筋合意」は最終合意ではなく、これからの取り組みが重要だと強調。約100人が参加した。

「詳細が分からない」ままの日本国民

 内田氏は、「大筋合意」後の11月5日にニュージーランド政府が全文テキストを公開し、日本政府が「概要」を公表したが、これは1000ページのテキストを10分の1に「抄訳」したものでしかないと解説。付属文書も5000ページにわたる膨大なもの。日本国民は詳細が分からないようになっており、日本政府は早急に全文公表すべきと強調した。しかも、正文は英語・仏語・スペイン語のみで日本語は規定されておらず、日本政府が訳したものはあくまで訳文で正文ではないと問題視。TPP交渉そのものだけでなく、日米並行協議やその他の国との二国間交渉などで交わした文書も重要で、その全容も明らかにしなければならないと指摘した。

「エンドレス・ゲーム」となる危険

 盛り込まれたISD条項やラチェット条項の危険性を指摘。ISD条項は、単に一企業の利益があがらないだけで、文化や伝統を背景とした規制を巡って国や自治体を訴えることができる条項であり、各国の政府や自治体の政策立案と実行権限を確実に萎縮させている。米国の議会でさえ論争がおこっているが、日本政府の危機感は薄いと批判した。ラチェット条項は、一度民営化した公共サービスを元に戻せなくなるもので、社会保障などの社会事業サービスなどは適用を留保しているとされるが、逆に留保していない分野には全て適用されることになる。

 また、テキストにはいたるところに再交渉や追加交渉の規定が設けられており、最たるものがTPP委員会を設置して発効後3年以内に追加交渉を検討するというもの。相手国から要請があれば関税撤廃時期の繰り上げを検討しなければならない。農産物については発効7年後に関税や関税割合の再協議をしなければいけない。TPPは、署名、批准、発効という手続きを経て実体化するが、かりに発効したとして、その後に再交渉や追加交渉などで、いくらでも内容が変わる危険性のある「エンドレス・ゲーム」となりかねないと指摘した。

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