医師が選んだ医事紛争事例 56  PDF

骨折発見の遅延 医療過誤はないけれど…

(70歳代前半女性)
〈事故の概要と経過〉
急性気管支炎、急性呼吸不全で入院していた。準夜帯勤務の看護師により、左下肢がぐらぐらしているのが確認されたが、その後の調査で2日前の準夜帯にはすでに異常があったことが判明した。股関節レントゲン撮影の結果、左大腿骨転子部骨折と診断された。主治医は患者の体力を考慮して手術はしなかった。骨折の原因としては、廃用性、自然骨折と診断した。患者は一旦退院したが、肺炎が悪化したため再入院となり数カ月後に死亡した。
患者側からは、入院中の骨折事故なのだから、賠償を求めるとの訴えが出た。
医療機関側としては、入院中の事故で原因不明という点については道義的責任を感じるが、賠償責任の有無については早急に判断できなかった。
紛争発生から解決まで約1年9カ月間要した。
〈問題点〉
以下の点から医療過誤を認めるのは困難だと考えられた。
①骨折時期と原因が特定できない②仮にオムツ交換や体位変換時等で、看護師による骨折が発生していたとしても、看護師の特段の不注意を指摘し得ない③およそ2日間の骨折発見の遅れがあるが、仮に2日早く発見していても、手術はやはり不能で患者の実損は拡大していない―。
ただし、賠償責任は別としても以下に問題点が認められた。
①骨折事故が発生したと予想されるカルテ記載がほとんどない②看護師は、患者の左大腿部の異常を認めているにもかかわらず、その報告ができておらず、2日間の骨折確認の遅れとなった③患者の死亡日を失念するなど、医療機関の院内調査が不十分な様子が窺われ、医療安全の姿勢と患者側への誠意が乏しいような心証を強く受けた。
〈結果〉
医療機関側が賠償責任まではないと主張したところ、患者側からのクレームが途絶えて久しくなったので、立ち消え解決とみなされた。

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