2010年度京都府内NO2測定結果  PDF

2010年度京都府内NO2測定結果

大気汚染は府・市内で平均化
地球温暖化防止は、待ったなしの課題

環境対策委員会(京都府保険医協会 京都府歯科保険医協会)

実施日:2010年12月2日(木)午後6時〜3日(金)午後6時の24時間
発送数:1880(医科:1398、歯科:346、事務局:25、定点:111)
回収数:981(回収率 全体:52%、医科:48%、歯科:52%)

はじめに

 京都府保険医協会環境対策委員会の呼びかけに応じていただいた、会員の皆様による京都府内二酸化窒素(NO2)大気汚染調査も今回で節目の10回(9年間)を数えました。ご協力に心より感謝申し上げます。

 大気中のNO2は主に自動車の排ガスによるものです。これまでの調査結果からは、京都市内、京都市以外の府内で、これまで汚染が少なかった地域が減り、汚染が拡散され、全体的に汚染が進んだことが伺えます。NO2によるびまん性の拡散が京都府内に起きています。

 昨年暮れに、メキシコ・カンクンで開催されたCOP16は、残念ながら2013年以降の法的拘束力を持つ合意に達することができませんでした。この会議の中で、日本政府は京都議定書不支持を主張し、温暖化対策に消極的な国として孤立しました。30年ぶりの昨年の猛暑といい、この冬の観測史上1位の豪雪、世界の至る所で熱波、寒波、洪水、干ばつ、山林火災等が起こり、異常気象は誰の目にも明らかです。そして昨年は記録のある113年間で平均気温が最も高かった年です。地球温暖化は待ったなしの課題です。「運輸部門」はCO2排出の15〜20%を占め、その9割弱が自動車によるものです。大気中のNO2濃度とCO2濃度は相関関係にあるとされています。温暖化対策の一つとして、自動車や自動車をめぐる環境、交通、エネルギー問題は避けて通れない課題と言えます。

測定方法

 今年度は、協会会員のここ5回(4年間)の調査に1回以上ご協力をいただいた方を対象に、プラスチックカプセル(天谷式NO2簡易測定カプセル)を郵送させていただきました。このカプセルを原則、会員医療機関玄関先あるいは近辺道路の、地上から1・5mの高さに粘着テープで取り付け、24時間大気にさらした後回収、協会へ返送していただきました。

 カプセルは配布1880個、回収981個、回収率は52%(09年53%、08年49%、07年45%、06年35%)でした。07年から引き続き、本年も配布対象の協力者を絞っています。測定に問題あるサンプルが160個あり、統計からは除外しました。また、その他として、四条烏丸付近、油小路通と十条通、横大路付近、五条御前の定点観測に111個(回収108個)を用いました。

測定は大気汚染全国一斉測定日に合わせて

 測定は大気汚染全国一斉測定日(年2回、他の1回は6月の第一木・金曜日)に合わせた10年12月2日(木)午後6時から3日(金)午後6時までの24時間で、当日の天候は、晴れのち曇り、夜間は雨、風はやや強め、翌日は曇り時々雨、午後3時頃から寒くなっています。

 大気中のNO2濃度は天候と相関し、晴れ、無風の日と比較し、雨や風の強い日には、測定値はかなり低めに出ます。また狭まった空間ほど拡散されにくく、高めに出ます。

測定基準

 測定基準は例年通り、国の定めた環境基準(1978)に準じて、20ppb以下を“きれい”、21〜40ppbを“少し汚れている”、41〜60ppbを“汚れている”、61ppb以上を“大変汚れている”と分類しました。なお、京都市は当面の環境保全基準を40ppb(1986年以前は20ppb)以下としています。

測定結果

 10年度NO2測定データ集計一覧は表1に示します。

 地域の「平均値」からは、京都市内ではすべての区が21ppb以上の“少し汚れている”に入り、今年は南区、東山区、伏見区が31ppb、続いて下京区が29ppb、中京区28ppb、山科区、上京区27ppb、左京区、右京区、西京区25ppb、北区が市内で最も低い23ppbを示しています。

 京都市以外の府内では、高い順に、久世郡、八幡市が府内最高値の35ppbを、続いて宇治市28ppb、京田辺市、綴喜郡27ppb、城陽市、福知山市26ppbとなっています。一方20ppb以下の“きれい”な地域は、与謝郡、船井郡17ppb、南丹市19ppb、京丹後市20ppbです。

 ワースト10とベスト10は表2、3に示しましたが、61ppb以上の“大変汚れている”地点は、今回は前年同様ありませんでした。天候による雨・風の影響がありますが、昨年と比較し“きれい”な20ppb以下の地域、地点が増えています。

表2
表2

表3
表3

 NO2濃度平均値年次推移表4で過去10回・9年間の経過を見ますと、測定し始めの頃と比較し、最近は高い地域と低い地城の差が縮まり、大気汚染が平均化し、府内全体に広がっている傾向を示しています。京都市内では、20ppb以下の“きれい”な地域(区)は第1回の測定を除いてなくなっています図1

 阪神高速道路8号京都線(「京都高速道路」)は上鳥羽出入口―巨椋池インターチェンジ間が08年1月19日に、また同年6月1日、山科出入口から鴨川東出入口間が開通しました。現在建設中の斜久世橋区間(写真1・2)が今年3月に完成すると、一気に山科―伏見間が連絡されます。一昨年から測定開始した高速道路出入口付近の十条通付近は平均値35・3ppb、油小路通付近は平均値“少し汚れている”上限近く38・9ppb、横大路付近は平均値“汚れている”44・6ppbで、最高地点では“大変汚れている”62ppbを示しています。今年度から測定を始めた四条烏丸付近は、平均値46・9ppbでした。特に烏丸四条東側でも最高地点は“大変汚れている”64ppbを示し、高いビルで囲まれた狭い空間(大丸京都店近辺)ではNO2が拡散しにくいためと考えられます。これまで続けてきた元京都府医師会館近辺の五条御前交差点は“少し汚れている”上限の40ppbでした図2

NO2の特性と人体への影響

 人間の経済・社会活動に基づく物質の影響で、大気が汚染されることを大気汚染といいます。大気汚染物質には、酸性雨、光化学オキシダント、窒素酸化物、粒子状物質、硫黄酸化物、一酸化炭素、ダイオキシンなどがあります。私たちが測定しているのがNO2濃度で、これにより大気汚染の程度をはかる指標にしています。これまで何度か報告の中で述べてきました大気汚染物質のうち、NO2と粒子状物質について復習してみます。

 ものが燃える時、大気中の窒素と酸素が高温に加熱され、化学反応を起こし、NO並びにNO2が発生します、現代の大気中のNO2は、主に自動車による排ガスです。NO2の人体への影響は、水に難溶性のため上気道で吸収が行われないので刺激が感じられず、すべて深部の肺胞に無刺激で到達します。そのため、上気道での沈着が少なく、細気管支や肺胞などの下気道に影響を与えます。NO2濃度と喘息の発症率とは相関関係にあり、NO2自体は無機化合物のため喘息の抗原物質とはなりにくいものの、気道の線毛を脱落させたり、アレルゲン作用を増強させます。またTリンパ球やBリンパ球の増強に関係し、一旦患った喘息をさらに悪化させます。

ディーゼル排気微粒子の毒性

 浮遊粒子状物質(SPM)とは大気中に浮遊する粒子直径が10ミクロン以下のものをいいます。その濃度はNO2と相関関係にあるとされています。SPM中さらに粒子直径が2・5ミクロン以下のものにディーゼル微粒子(DEP)があります、DEP中には、非常に有害な発がん物質やダイオキシンなど、様々な毒性の強い有機化合物がたくさん含まれていて、肺胞に達し血液内に入っていきます。DEPはこれまでの研究成果や動物実験などから健康への影響として、(1)肺がん(2)アレルギー性鼻炎(3)気管支喘息(4)食物アレルギー(5)自己免疫疾患(6)環境ホルモン作用―などを引き起こすことが知られています。そのため先進国で喘息や花粉症などの粘膜アレルギーの増加の原因物質として、DEPは大いに注目されています。

 大気中のNO2もDEPも共に、その大部分が自動車排気ガス由来のものであり、微量でも長年にわたる吸入は、人体へ呼吸器系をはじめ全身に悪影響を及ぼします。環境省の環境庁が行った1986〜90年度、92〜95年度の2期にわたる、埼玉、大阪、京都の学童5000人の調査では、NO2濃度、SPM濃度と喘息様症状有病率とに有意な相関関係が見られるとしています。

自動車がもたらした明と暗

 1769年フランス陸軍技術大尉ニコラ=ジョゼフ・キュニョーが世界初の蒸気自動車を走らせて以来、19世紀末にドイツのゴットリーブ・ダイムラーとカール・ベンツのガソリン式自動車の発明で、自動車は早くて安全な乗り物として一気に大金持ちの所有欲をかき立てました。1907年には、アメリカのフォード社がT型フォードを発売し、富裕層の乗り物であった自動車を大衆のものにするとともに、自動車産業も巨大化していきました。今日、トヨタやGMをはじめとするいくつもの巨大な自動車会社が、グローバル化した世界市場を巡ってしのぎを削っています。先進国では自動車台数が頭打ちまたは減少に転じていますが、中国やインドなどの新興国では、急激な伸びを示しています。世界中で、今後も自動車台数は増え続けるでしょう。

 自動車は人やモノの移動手段として、社会や個人に多くの便益を与えてきました。しかし反面、人々の生命・健康・安全を脅かす存在としても認識されるようになりました。負の側面として、「自動車四悪」と称される、自動車交通事故、道路渋滞、環境破壊(大気汚染、騒音、振動など)、石油資源消費に加え、空間占拠で都市やコミュニティーの破壊などがあります。

 日本は世界一の「道路王国」で、全道路延長や高速道路の1平方キロ当たり国土面積密度は「世界の道路統計」で桁違いのトップとなっています。狭い国土に網の目のように張り巡らした高速道路。土地や建設の利権を巡っての汚職も絶えません。国土交通省の技術官僚が、地図の上に描いた図面をもとに、鉄とコンクリートの無機質な高速道路が造られ、その引き替えに十年、百年単位でしか復元されない自然や景観、生物多様性を破壊する行為は、このあたりでやめてはいかがでしょうか。

 京都府内では、第二京阪道路、第二外環(大山崎〜久御山)、阪神高速8号京都線(京都高速道路)、京都縦貫自動車道等が開通、現在、斜久世橋区間(写真1・2)、第二外環(大枝〜大山崎)(写真3)などが建設中です。京都府民は、高速道路建設で自動車の利便性を手にしましたが、多くのものを同時に失い、負の遺産も引き継ぎました。

写真1・2・3

おわりに

 これまで10回(9年間)にわたって、会員の皆様のお力をお借りして、NO2測定大気汚染調査を行ってきました。10回という一つの区切り、その結果からは、大気汚染は府・市内で平均化し、びまん性に拡散しつつある傾向が見られます。私たちの生命や健康を守るために大気汚染を防止し、暮らしや自然の破壊を防ぐために、府内の道路・交通問題に積極的に関わりましょう。地球温暖化防止は、私たちが直面する世界的な規模の待ったなしの課題です。CO2削滅の具体的な行動が重要です。

 これまでのご協力にあらためて謝意を表しますと共に、次回の測定にもご協力をお願い申し上げます。

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