2009年度京都府内NO2測定結果

2009年度京都府内NO2測定結果

大気汚染は府内全体にびまん性に拡散
脱「クルマ社会」で健康でク〜ルな京都を

環境対策委員会(京都府保険医協会 京都府歯科保険医協会)

実施日:2009年12月3日(木)午後6時〜4日(金)午後6時の24時間
発送数:1908(医科:1422、歯科:353、事務局:26、定点:107)
回収数:1015(回収率 全体:53%、医科:50%、歯科:50%)

はじめに

 環境対策委員会の呼びかけに応じていただいた、医科・歯科会員による京都府内二酸化窒素(NO2)大気汚染調査も今回で9回(8年間)を数えました。ご協力に心より感謝申し上げます。

 これまでの調査結果からは、京都市内、京都市以外の府内で、これまで汚染が少なかった地域が減り、汚染が拡散され、全体に汚染が進んだことが伺えます。病気にたとえますと、NO2によるびまん性の浸潤が京都府内全体に広がったということでしょうか。

 昨年暮れに、デンマーク・コペンハーゲンで開催されたCOP15では、二酸化炭素(CO2)削減について各国の思惑が強く、具体的な目標値の国際的な合意が得られず、「留意」となりました。地球温暖化は待ったなしの課題です。「運輸部門」はCO2排出の15〜20%を占め、その9割弱が自動車によるものです。そして、大気中のNO2濃度とCO2濃度は相関関係にあるとされています。今後、先進国の自動車数は頭打ちあるいは減少が見込まれますが、中国、インドなど発展途上国の自動車普及は更なる進展が予測されます。CO2排出の削減や環境への負担軽減を図るためには、「自動車と道路」による交通システムを、環境と人に優しい交通システムへと転換させることが重要です。

 20世紀は「自動車と石油の世紀」、21世紀は「環境の世紀」と言われます。今や私たちには、「環境の世紀」にふさわしい、「持続可能な発展」のパラダイム変換を大胆に進めることが求められています。

測定方法

 今年度は、過去5回の調査に1回以上ご協力いただいた方を対象に、プラスチックカプセル(天谷式NO2簡易測定カプセル)を郵送させていただきました。このカプセルを原則、会員医療機関の玄関先あるいは近辺道路の、地上から1・5mの高さに粘着テープで取り付け、24時間大気にさらした後回収、協会へ返送していただきました。

 カプセル配布は1908個、回収1015個、回収率は53%(08年49%、07年45%、06年35%)でした。本年は配布対象の協力者を絞った(07年より)ため、回収率は上がっています。測定時間や測定日が違うなど問題のあるサンプルが170個あり、統計からは除外しました。またその他として、京都府医師会館周辺、油小路と十条通、横大路付近の定点観測に107個(回収103個)を用いました。

 測定は大気汚染全国一斉測定日(年2回、他の1回は6月の第一木・金曜日)に合わせた09年12月3日(木)午後6時から12月4日(金)午後6時までの24時間で、当日の天候は、雨時々曇り、冷え込み、風はやや強めでした。これまで長年の全国的測定において、天候とは正確に比例しており、晴れ、無風の日と比較し、今回の測定値はかなり低めに出ています。

測定基準

 測定基準は例年通り、国の定めた環境基準(1973年20ppb以下、1978年41〜60ppb)に準じて、20ppb以下(1973年基準内)を“きれい”、21〜40ppb(現基準以下)を“少し汚れている”、41〜60ppb(現基準)を“汚れている”、61ppb以上(現基準超)を“大変汚れている”と分類しました。なお、京都市は当面の環境保全基準を40ppb(1986年以前は20ppb)以下としています。

測定結果

 2009年度NO2測定データ集計一覧は表1に示します。

表1 2009年度NO2測定データ集計一覧(2009年12月3日18時〜4日18時測定)

 地域の「平均値」からは、京都市内ではすべての区が21ppb以上の“少し汚れている”に入り、今年は30ppb台がなく、下京区、南区が28ppb、東山区、伏見区が27ppbと、市内で比較的高い値を示しました。京都市以外の府内では、長岡京市、向日市、乙訓郡、宇治市、城陽市、久世郡、八幡市、京田辺市、木津川市、相楽郡、舞鶴市が21ppb以上の“少し汚れている”に入っています。20ppb以下の“きれい”な地域は、綴喜郡、亀岡市、南丹市、船井郡、綾部市、福知山市、宮津市、京丹後市となっています。

 ワースト10とベスト10は表2、3に示しましたが、61ppb以上の“大変汚れている”地点は今回はありませんでした。天候による雨・風の影響が大きく、不況やクルマ離れなどによる自動車交通量の減少も加わっていると考えられます。

 NO2濃度平均値年次推移(表4)で過去9回・8年間の経過を見ますと、京滋バイパスや京都縦貫自動車道をはじめとする道路の建設や拡張・整備で、交通量が平均化し、大気汚染も府内全体に拡散してきています。

表4 NO2濃度平均値年次推移(ppb)

 阪神高速8号京都線(京都高速道路)は上鳥羽出入口―巨椋池インターチェンジ間が2008年1月19日に、また同年6月1日、山科出入口―鴨川東出入口間が開通しました。2011年3月開通予定の斜久世橋区間が完成すると、一気に山科―伏見間が連絡されます。一昨年から測定開始した出入口に当たる十条油小路から鴨川付近、今年度から測定を始めた幹線道路が交錯する横大路付近、当初から継続している京都府医師会館近辺のNO2濃度を示しました(図1、2、3、4)。幹線道路沿いは、高い値を示しています。皆様方の測定された値と比較し、ご参考にして下さい。

図1 十条通付近(平均:32ppb))

図2 油小路通付近(平均:36ppb)

図3 医師会館付近(平均:29ppb)※屋上含む

図4 横大路付近(平均:43ppb)

NO2の特性と人体への影響について

 NO2は、ものが燃えるとき、大気中の窒素と酸素が高温に加熱され、化学反応を起こしNO並びにNO2が発生します。NO2は茶褐色の刺激性のガスで、1〜3ppm(1ppm=1000ppb)で臭気を感じ始め、13ppm程度で鼻や目の刺激臭があります。水に難溶性のため、上気道で吸収が行われないので、刺激を感じず、すべて深部の肺胞に無刺激で到達します。上気道での沈着が少なく気道の深部に到達しやすく、細気管支や肺胞などの下気道に影響を与えます。150ppm以上の吸入で暴露後数時間を経て、呼吸困難を伴なう肺水腫を起こし、500ppm以上吸入すると数分以内で死亡することもあると言われています。また、NO2は太陽光線と反応してオキシダントを生成し光化学スモッグの原因となります。NO2濃度と喘息の発症率とは相関関係にあり、NO2自体は無機化合物のため喘息の抗原物質とはなりにくいものの、気道の線毛を脱落させたり、アレルゲン作用を増強させます。またTリンパ球やBリンパ球の増強に関係し、いったん患った喘息をさらに悪化させます。

ディーゼル排気微粒子の毒性

 さらに、大気汚染物質の一つに浮遊粒子状物質(SPM)があります。大気中に浮遊する粒子状物質のうち、直径が10ミクロン(1ミクロン=1000分の1mm)以下のものをSPMと呼びます。その濃度はNO2濃度と相関関係にあるとされています。そのSPM中に粒子直径が2・5ミクロン以下の微粒子があり、その大部分を占めるディーゼル排気微粒子(DEP)には、非常に有害な発ガン物質やダイオキシンなど、様々な毒性の強い有機化合物がたくさん含まれていて、肺胞に達し血液中に入っていきます。DEPはこれまでの研究成果や動物実験などから健康への影響として、(1)肺ガン、(2)アレルギー性鼻炎、(3)気管支喘息、(4)食物アレルギー、(5)自己免疫疾患、(6)環境ホルモン作用―などを引き起こすことが知られています。(嵯峨井勝氏)

 大気中のNO2もDEPとともに、その大部分が自動車排気ガス由来のものであり、微量でも長年にわたる吸引は、呼吸器系をはじめ全身に悪影響を及ぼします。

自動車使用のつけがまわってきた…空間の占拠

 20世紀に自動車がもたらした社会や個人への豊かさや便利さは否定できませんが、一方では「自動車四悪」と称される、自動車交通事故、道路渋滞、環境破壊(大気汚染、騒音、振動など)、石油資源消費をもたらしました。

 加えて、自動車使用で十分に理解されていない点に、都市空間の破壊を伴なうことがあります。都市の数十%が自動車に関係する土地利用で、道路空間は言うに及ばず、特に問題なのは駐車空間です。ほとんどの自動車は90〜95%の時間は駐車しており、保有場所を出先とで、複数箇所の空間を必要とします。自家用車を保有する場合でも、法律上、自宅の土地の一部を駐車場所にするか、駐車場を借りなければ自動車は保有できません。街は駐車場で分断され、子どもの遊び場や老人の憩いの場所は奪われ、コミュニティーも景観も破壊され、広大な土地と駐車場整備コストがかかり、問題が多いとされています。(望月真一氏)

 また、日本は世界一の「道路大国」で、全道路延長や高速道路の1km2当たり国土面積密度は「世界の道路統計」で桁違いのトップとなっています。社会保障や教育の支出が先進国で最下位グループ、道路では世界断トツの1位ということは、道路によって私たちの生活の質がきわめて貧しく抑えられていることを物語っています。(小川明雄氏)

京都府の大気汚染とこれからの課題

 京都府内では近年、第二京阪道路、京都第二外環状道路、阪神高速8号京都線(京都高速道路の2路線)、京都縦貫自動車道等の部分、あるいは全面開通により、自動車道路交通網が整備されてきました。クルマで短時間に目的地に到達できるという便利さを手に入れましたが、一方で前述した「自動車四悪」を京都府内にもたらしました。これまでの過去9回の調査結果から、NO2による大気汚染は京都府内全般に拡散しています。20ppb以下の“きれい”な地域が、京都市内では見られなくなっています。京都市の環境保全基準(本来は20ppb以下)が守られていない状態を23年間も放置していることは、蓋然性の無視あるいは市民の健康被害(予防)無視であり、市当局の善処を望みます。

 21世紀を「環境の世紀」とすると、地球温暖化を促進、環境に負荷を与え、駐車や道路で土地空間を奪うことでコミュニティーを破壊する自動車交通は、人・物を移送する手段としては不適と言うべきです。私たちはそろそろ「クルマ社会」を脱し、自転車の更なる普及や、地球環境に優しいかつ新しい公共輸送システムを作りなおさなければならない時期を迎えています。

おわりに

 これまで9回(8年間)にわたって、会員の皆様のお力をお借りして、NO2測定大気汚染調査を行ってきました。その結果からは、大気汚染は府内にびまん性に拡散しつつあることが判明しました。地球温暖化防止は、金融危機からの脱出とともに世界が直面する二大重要緊急課題です。日本のCO2排出量を2030年までに25%削減するという目標実現や、「地球温暖化対策基本法」の成立に向かって努力するとともに、メキシコでのCOP16の成功を目指し、具体的な行動を起こしましょう。次回の測定は記念すべき10回目となります。これまでのご協力に謝意を表しますとともに、次回の測定にご協力をお願いいたします。

 ※協力いただいた方への個別結果は近日発送予定。

(1)(2)現在建設中の阪神高速8号京都線「斜久世橋区間」

(3)子どもたちから遊び場や老人の憩いの場を奪った町中の駐車場、(4)「空間食い虫」自動車

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