08年度医療安全シンポジウム開く

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救急医療の現状と限界を探る

 京都府保険医協会は3月14日、京都市内のホテルで「救急医療の現状と限界」と題して医療安全シンポジウムを開催した。シンポジウムには、会員や会員医療機関の従事者ら104人が参加、5人のパネリストによる話題提供の後、熱心に討論・意見交換した。抄録は、5月末に発行予定。

 問題提起したのは、(1)京都市消防局安全救急部救急課課長補佐の西川裕之氏、(2)京都第二赤十字病院看護副部長の石原知代氏、(3)湘南鎌倉総合病院救急総合診療科部長の太田凡氏、(4)大阪府三島救命救急センター副所長の大石泰男氏、(5)葵法律事務所弁護士の三重利典氏。

救急医療で討論が交わされたシンポジウム

京都市の救急

 西川氏は、「京都市における救急業務の概況」をテーマに話題提供。まず、京都市内には157人の救急救命士が在籍しており、その中には、気管挿管(53人)や薬剤投与(69人)の可能な認定救命士がいることを紹介した。2008年中の救急出動件数は6万9187件で、06年まで右肩上がりであったものが、07年に続き減少している。その内訳は64%が急病で、次いで交通事故が13%を占めている。京都市内の救急車の現場到着平均時間は4.2分、病院収容時間は23.6分であり、この成績は全国に比しても優秀である。更に、心肺停止患者の救命率は全国が10.2%であるのに対して、京都市は12.5%と高いレベルを維持していることを紹介した。更に、8人の一般市民がAEDの使用により救命に貢献したことを報告し、初期救命対応の重要性を強調した。

救急看護の現状

 石原氏は、「救急看護の現状と課題」をテーマに話題提供。1次から3次まで受け入れる地域密着型の救命救急センターの方針を報告した後に、看護師の夜間・休日受け入れ体制として、管理当直1人、ERスタッフ2人、外来看護師1人で対応している現状を報告した。救急看護の特徴として、救急患者は突然の発症で現病歴及び既往歴が把握しにくいことや、状態が急変すること、歩いてきた患者でも軽傷とは限らないことなどを指摘した。更に救急看護師に求められることとしては、(1)広範囲の専門知識や観察力・先見性・判断力、(2)家族ケア、(3)コミュニケーション能力と協働する姿勢、(4)暴言・暴力への適切な対応−等を述べた。最後に今後の主な課題として、(1)良質な看護の提供ができる人材育成、(2)大病院集中傾向による受け入れが困難な状態への対処、(3)地域住民への救急に関する理解の普及活動、(4)患者の権利意識の増大への対応−を重要視していかなければならないことを挙げた。 

北米型ERの実践

 太田氏は、「ER in a field hospital 北米型ERの実践現場から」をテーマに話題提供。まず、救急外来診療のリスクを事例を交えて、以下の4点に絞り報告した。(1)病態、(2)医師・患者関係、(3)救急医療の特性、(4)救急担当医師の負担。次に処置中のポイントとして、(1)院内トリアージ、(2)オンコール体制、(3)災害対応に準じる−ことを挙げ、手術中には、(1)可能な限り対応、(2)限界を超える場合は初期対応を行った後、外科医の判断により他院へ紹介−とした。また、入院の担当科が決定できないときは、内科系であれば総合内科へ、外科系であれば外科とするルールを遵守していることを紹介。湘南鎌倉総合病院では、全ての患者の受け入れを原則としているが、その原動力として、従事者の意識や救急に携わっているという自負、更に教育体制の充実を挙げた。

3次救急の限界

 大石氏は、「3次救急医療の現状と限界」をテーマに話題提供。大阪府三島救命救急センターでは、湘南鎌倉総合病院ほど徹底した受け入れは、実際問題として不可能な場合があるとしながらも、消防ステーション方式によるドクターカーを配置した特別救急隊を組織し、できる範囲で対応していることを報告するとともに、受け入れ不能であった症例の分析事例を紹介した。その中で06年の診療報酬引き下げ以降、救急依頼が増加して体制維持が困難である窮状を訴えた。2次救急医療機関の疲弊により、結果的として3次救急医療機関に負担が増加している構造が明らかにされた。

救急医療と裁判事例

 三重氏は、「救急医療と医療裁判」をテーマに話題提供。(1)受診拒否、(2)プライマリーサーベイ、(3)セカンダリーサーベイ、(4)処置の誤り−が問題となった判例を中心に解説した。ひとたび、救急医療が裁判にまで至ってしまうと、それに携わっている医療従事者の置かれている深刻な環境や事情が、必ずしも裁判で認定されないことが示唆された。

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