高速増殖炉・再処理工場・プルサーマルは本当に必要か?もんじゅの運転再開から考える

高速増殖炉・再処理工場・プルサーマルは本当に必要か?
もんじゅの運転再開から考える

 日本の原子力政策は、09年11月に始まったプルサーマル、10年5月6日に運転再開した「もんじゅ」と再び大きな動きをみせている。4月10日、協会は歯科協会と共催で、「核燃料サイクル破綻の隠蔽 もんじゅ運転再開とプルサーマル」と題して、元京都大学原子炉実験所講師の小林圭二氏の講演会を実施し、56人が参加した。

小林圭二氏
小林圭二氏

小林圭二氏にきく 政策破綻の隠れ蓑としてのプルサーマル

 高速増殖炉、プルサーマル、再処理工場。この三つの動きには互いに強い関係がある。なかでも高速増殖炉と再処理工場とは密接不可分の関係にあり、高速増殖炉に燃料を供給するのが再処理工場で、高速増殖炉に欠かせない付属施設である。逆に、高速増殖炉を開発しないのであれば再処理工場は必要ない。

 日本の原子力政策は、高速増殖炉開発を中心に据えている。そのため、軽水炉の使用済燃料はすべて再処理し、プルトニウムを取り出して将来の高速増殖炉用燃料にすることが基本となっている。ところが、高速増殖炉の開発は困難を極め、95年、「もんじゅ」でナトリウム漏えい・火災事故が起こるに至って、日本の開発も頓挫した。

 その結果、全国の原発から使用済燃料が集められる六ヶ所村は核のゴミ捨て場と化す恐れが出てきた。当然、青森県や六ヶ所村は、使用済燃料の受け入れを拒否。搬入を拒否された使用済燃料は、各原発の敷地内で保管するほかない。しかし、保管容量が足りないから、各原発は保管施設の拡大を計画した。ところが、今度は原発立地が核のゴミ捨て場になるとして住民や自治体から拡大計画を拒否された。こうして、使用済燃料の持って行く先がどこにもなくなってしまった。事態を放置すれば、遠からず日本の原発はすべて停止しなければならなくなる。

 この“危機”を打開するために、プルトニウムの新たな使い道をこしらえる必要があり、そこで国と電力会社が持ち出してきたのがプルサーマル。つまり、プルサーマルは「もんじゅ」の代役として、原子力政策の破綻を覆い隠す隠れ蓑の役割を担わせたものだ。

 日本がこれからやろうとしているプルサーマルは、プルトニウム含有率については世界のどこも経験してない初の試みである。プルサーマルをやると危険性が増大することは、国や電力会社もよく知っていることである。そのため、運用方法を工夫して危険性の増加を抑えようとしている。しかし、構造には手をつけない間に合わせの対策に過ぎないため、原発がこれまで持っていた安全余裕を確実に削ってしまう。その結果、事故がより起こりやすく、また、事故に耐える力を削いでしまうことになる。

 プルサーマル最大の問題点の一つに、使用済MOX燃料をどうするか決まっていない問題がある。六ヶ所再処理工場は使用済ウラン燃料を再処理する工場で、MOX燃料を再処理するところではない。国と電力会社は、10年頃から第二再処理工場の検討を開始し、そこで考えると言っているが、六ヶ所再処理工場でさえトラブルや事故が相次いで試験が進まず、いつ稼働できるかわからない状況である。使用済ウラン燃料よりもっと困難なMOX燃料の再処理が実現する見通しはまったくない。

 プルサーマルの許可が下りた各原発では、再処理先が決まるまでそれぞれの敷地内で貯蔵するとされている。しかし、貯蔵がいつまでも続き、各原発で溜まり続け、サイトが使用済MOX燃料の墓場と化す恐れが強くなってきた。

 プルサーマルは、このように後のことも考えず強引に見切り発車されつつある。それは、国の原子力政策失敗のツケを原発立地住民に押し付けること以外の何ものでもない。

経済性・安全性とも成り立たないもんじゅ

 「もんじゅ」型の高速増殖炉は、実は経済的に成り立たない。まず建設費が高すぎる(直接の建設費だけで5886億円)。発電出力当たりで比較すると、軽水炉の約5倍にもなる。他に設計関連開発費と維持管理費を含めると、これまで国費だけで約9000億円余を投入している。停止中でも年間約200億円(一日平均5500万円)、運転再開予定の10年度は233億円かかり、これら以外に「もんじゅ」の燃料製造など燃料関係の費用がかかっている。

 そして、現在描かれている高速増殖炉の実用化像は、軽水炉に競合できる経済性の向上を目指すとして、「もんじゅ」とはまったく異なる構造となっている。「もんじゅ」は、もはや原型炉ではなく運転を再開する意味がない。

 そもそも、14年間停まったままだった「もんじゅ」の運転再開が、長期停止中に進行した劣化の問題とその点検に限界があることを考えると、大変恐ろしいということは誰でも感じることである。

 六ヶ所再処理工場も技術的に行き詰まっているだけでなく、そこから出る高レベル放射性廃棄物は、将来地下300メートル以深に埋設処分する方針だが、地震国日本には埋設処分場の適地はどこにもなく、引き受ける地域もない。

 07年7月16日の新潟県中越沖地震で、東京電力柏崎刈羽の7基の原発は想定を何倍も越える地震動に襲われ、重大な損傷を被った。それを契機に、「もんじゅ」を含む全国の原発がことごとく想定地震動を大幅に過小評価していたことが明らかになっている。既設の原発で進む老朽化とともに、地震による大事故の発生がますます現実味を帯びている。その一方で、捨て場のない放射性廃棄物がどんどん溜まっていく。

 日本列島を危険施設に蹂躙させないよう、私たちの運動は今、正念場を迎えている。(詳細は、5月末発行の『再び、原発廃止に向けて』に収載)

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