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談話

京都府保険医協会 副理事長 垣田さち子

 4月5日に国会上程された介護保険改正法案(介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案)について、地域医療を担う立場から意見を表明します。

震災は介護保険制度の限界を明らかにした

 3月11日に発生した東日本大震災の死者・行方不明者は2万人を超え、亡くなられた方の半数以上が60歳以上と言われます。この事実に普段の行政や医療者、福祉関係者による高齢者の状況把握の大切さを痛感します。それは「孤独死」「介護心中」等の要因となる高齢者世帯の「孤立」を防ぐことと同時に、災害時の対応として重要と再認識しました。しかし、「個人情報保護」等が壁になり、特に行政との間で情報共有を図ることが困難な現実があります。震災を踏まえ、実効性ある地域の情報共有と高齢者援護策の検討が急がれます。改正法案は「地域包括ケアシステム」を打ち出していますが、地域ケアシステムの具体化とは、今述べた安心・安全の地域社会構築と不可分の課題です。しかし、改正法案が示すのは、制度の「持続可能性」を前提にした給付抑制策の一環に過ぎません。私はそこに介護保険制度による介護保障の限界を見ます。介護保障はその人の生活の基礎を成す保障です。それは国家の仕事であり、個人の負担や契約と無関係に保障すべきです。被災地の状況は介護保険制度の限界を明らかにしました。財政負担や申請・認定・契約の有無がサービス提供の有無と直結し、また医療制度における医師のような専門職の裁量は認められにくいその構造では、いちばん必要な場面で必要なサービスを提供できないのです。

 震災は、介護保険制度が介護保障に相応しい仕組みかを国に問いかけているのです。

介護保険では地域包括ケアも介護保障も実現しない

 今回の法改正にあたって繰り返された言葉に「ペイ・アズ・ユー・ゴー」があります。介護保険制度には保険原理が強固に貫かれ、財政問題が優先され、サービスの対象・範囲・内容の制限が常に図られようとします。介護保障に必要な「生活全体を支える」視点は希薄で、排泄・食事等の基礎的生活行為に関する保障さえも制限的です。このように基本的なケア観が不適切なままでは、24時間・365日と新サービスを導入したところで高齢者の生活全体を支える仕組みになるはずがありません。また、介護職による医療行為の実施を、安易に盛り込んだことも重大です。医療・介護のあり方に関する基本的な問題であり、丁寧な合意形成が必要です。一体これが高齢者や家族が望む方向性なのかを検討したのでしょうか。在宅療養推進への人材難を理由に、便宜的に認める姿勢に強い不信を覚えます。

 以上のことから、改正法案が扱う「地域包括ケアシステム」が介護保険制度の枠内では対応不能な課題であり、介護保障自体にも介護保険は限界があることを国に認識してもらいたいと考えます。介護保障とは何か、その主体たる国の責任とを、もう一度考えていただくよう望みます。それこそが、震災を経た日本で介護保障を再構築する第一歩なのです。

2011年5月19日

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