裁判事例に学ぶ医療事故の防止(1)

裁判事例に学ぶ医療事故の防止(1)

 京都府保険医協会は、医事紛争の適正な早期解決をめざして、医師賠償責任保険を活用の上、紛争解決支援活動に勤しんでおります。裁判外での紛争解決を促進するには、裁判所の判断の動向を知る必要があり、今回から主に判例誌等に掲載して公表された判決文の要約を掲載します。日本臨床整形外科学会だより(JCOAニュース)に同会の医療安全・倫理委員会が要約して掲載したものに加筆し、あるいは書き下しを追加して再編集し、客観的かつ正確な記述を目的として、資料的価値を保持する予定です。原告側・被告側の主張の違いを評価した裁判所の判断から、医療安全の参考になる注意事項を抽出して、把握していただければ幸いです。

(医療安全対策部会理事・宇田憲司)

問診により薬剤アレルギーの既往を知りアナフィラキシーショック発現時の準備を

 平成2年8月9日S状結腸癌切除術の術後、パンスポリンとエポセリンが投与された(皮膚反応試験は陰性)。問診表の「異常体質過敏症・ショック等の有無」欄では「抗生物質剤(ペニシリン、ストマイ等)」に丸印が付され、問診では「青魚・生魚や風邪薬で蕁麻疹が出る」であった。縫合不全が疑われ、ペントシリンとベストコールに変更された(同陰性)。細菌が4種検出され、25日、全てに感受性を示すミノマイシン(同実施なし)が追加・点滴静注され、数分後うめき声をあげショックに陥った。看護師が呼ばれ医師もかけつけ救急蘇生したが、翌日死亡した。最高裁は、アレルギー性の過敏な体質の申告があり、ショックの原因となり得る薬剤を新たに投与する場合は、発症の可能性を予見して、看護師に初期の経過観察と発症後は迅速に救急処置ができるよう準備しておく指示を怠った医師の過失を認めた(最判平16・9・7)注)

 日本化学療法学会のガイドライン(同会学ホームページ及び日整会誌78巻11号綴込み参照)では、抗菌薬によるアナフィラキシー様症状の発生予知の確実な方法はなく、問診、投薬・注射後の経過観察、異状時の迅速な対応が重視される。

 アレルギー歴が、抗菌薬ショックの既往では、(1)当該抗菌薬の投与禁忌、(2)類似薬では原則投与禁忌とし、(3)異系統薬のみ皮膚反応試験(プリックテストから実施)で陰性の場合に慎重投与が許容される。また、ショック以外の過敏症の既往では原則禁忌であるが、当該抗菌薬で同テスト陰性の場合は、慎重投与が許容される。

 抗菌薬の静脈内投与開始後は、終了後まで安静状態を保ち、特に投与開始直後数分間の注意深い観察が求められ、しびれ感、不快感、口内異常感、喘鳴、眩暈、便意、耳鳴りなど即時型アレルギー反応を疑わす症状の出現時は、速やかに投与を中止する。バイタルサインをチェックし、血圧低下・気道閉塞症状・意識障害の有無などから重症度を評価し、静脈ルートを確保のうえ、アナフィラキシー初期治療薬としてエピネフリン、その他の薬剤や救急蘇生用の器具を予め準備し、処置を始める。中等〜重症で呼吸管理が十分に行えない医療施設では、でき得る限り対応しつつ、速やかに可能な施設への転医を必要とする。

 (同ニュース2005・2No.80より、文責・宇田憲司)

注)判例タイムズ1169号158頁、判例時報1880号64頁

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