社保研レポート/創傷は湿らせながら治すことが重要

社保研レポート/創傷は湿らせながら治すことが重要

第626回(1/15) 在宅褥瘡ケアに生かせる創傷管理の基本
講師 天理よろづ相談所世話部 在宅世話どりセンター長 中村 義徳氏

 創傷治癒はキズを乾かさないで湿らせながら治すこと(moist wound healing)が重要であるということを実際の症例のスライドを供覧しながら講演された。

 キズの手当はキズ口を消毒し、湿布してガーゼを当て乾燥を促す痂皮化治癒が従来より行われている。しかし一般に消毒液として使用されるイソジン液は細胞毒性が強いこと、またガーゼを当てると乾燥が進み、組織の壊死を助長してしまうことよりキズの治癒に関しては良い方法とは言えない。

 創傷の治癒にはまず「キズをきれいにする」ことが大切で、死腔を放置せず、壊死組織、異物を取り除き、デブリードマンを行った上でキズの周りの汚れを落とすことが重要である。そのためには創面を石鹸で十分に洗い流すことが必要である。生理食塩水でなくても水道水で問題なく、消毒液で消毒する必要はない。どうしても消毒したい場合は100倍希釈液のように薄くして使う。その上でドレッシングを当て湿潤環境を保つようにする。湿潤環境が保たれると創傷滲出液が創に出てきて創底の乾燥を防ぎ、組織修復に関与する細胞や免疫細胞の移動を助け、栄養の供給を可能にし、壊死、損傷した組織の分界(自己融解)を促進する治癒に適した状態となる。

 ドレッシング材で創を覆うことは1957年にGimbelが熱傷の水泡に覆われた創の治りが良いことを発見し、1962年にWinterがそれを動物実験で証明してmoist wound healingの概念を提唱したが、臨床の実地で注目され応用されるようになったのはずっと後になり、2000年の後半になってストーマケアに対する認識の高まりと創傷被覆材や創傷治癒促進薬が開発されてからである。ドレッシング材としては、以前ラップを用いたラップ療法が安価で処置に時間がかからず万能とされていたが、組成がポリ塩化ビニルやポリエチレンで通気性が無く、浸出液が溜まり皮膚を傷めてしまうため、現在は行われなくなってきている。代わって組成がポリウレタンの近代ドレッシングが開発された。透過性が良く、創面の温度を保ちながら余分な水分を飛ばし、ある程度の湿潤環境を保つのが目的でトランスペアレントフィルムと呼ばれ、商品としてはオプサイト・ウンド、テガダーム、バイオクルーシブがあり、より水蒸気として水分を飛ばすものとしてオプサイド153000、テガダームHP、バイオクルーシブH、パーミエイドS、優肌パーミエイドが開発された。

 創傷には急性創傷と慢性創傷があり、褥瘡は慢性創傷に分けられる。褥瘡の原因には外力(応力)が関与しているので、褥瘡の治癒には創面の処置だけでは治らず、外力を取り除くことが最重要である。そのためにはマットレスを整えること、体位変換が必要になる。また創傷の細菌感染を防ぐ意味で、全く消毒液を使わないことから、場合によっては消毒することも見直されつつある。

 講演を拝聴した後、診療所に戻り、夜診でキズの交換にイソジン液で創面を消毒しガーゼを当てている自分がいました。何か虚しさを感じましたが、治り難い創傷に講演の先生の教えを応用しようと考えています。

(左京・林 仁薫)

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