社保研レポート 日常臨床において常に甲状腺疾患の存在を意識する必要性

社保研レポート
日常臨床において常に甲状腺疾患の存在を意識する必要性

第623回(7/17)甲状腺疾患の診断から治療まで

講師:京都大学医学部附属病院 探索医療センター教授 赤水尚史 氏

 甲状腺の代表的疾患であるバセドウ病、橋本病、甲状腺腫瘍の診断・治療について講演された。

 バセドウ病の診断はガイドラインにそって行われるがTSHレセプター抗体(TRAB)が陰性の場合、無痛性甲状腺炎との鑑別が必要となる。

 甲状腺機能検査はTSH、F-T3、F-T4それぞれの特徴からも、すべて測定するのが基本である。

 またTRAB には従来法と、高感度法(第二、第三世代)があり、高感度TRBは感度・特異性が大幅に改良され、バセドウ病疑いの初診例での利用が勧められる。

 治療は内科治療、アイソトープ治療、外科治療に大別される。バセドウ病薬物治療ガイドラインによると、メルカゾール(MMI)が第1選択剤で、妊婦・授乳婦はチウラジールが望ましいとされ、MMIの初期投与量はF-T4 5ng/ml以上では6錠/day、5ng/ml未満では3錠/dayで開始し、その後漸減しながら1年半以上の投与が推奨されている。そして1錠隔日投与で6カ月以上甲状腺機能が正常に保たれていれば中止を検討する。さらにTRABが陰性なら更に寛解の可能性が高まるとされている。続いて抗甲状腺剤の副作用、甲状腺クリーゼの治療についても述べられた。

 次に橋本病について診断ガイドラインが示された。治療は機能が正常であれば1年に1回程度の経過観察でよく、低下している場合T4を少量から開始し、2〜3週かけて漸増する。また日常診療でよく遭遇する潜在性甲状腺機能低下症に触れられ、積極的に治療する場合として妊婦、妊娠予定者は絶対適応、TSHが10μIU/ml以上の持続が絶対適応に近いとされ、他に相対的適応として50歳以上の女性、脂質代謝異常、甲状腺腫の存在などがあげられた。

 最後に甲状腺腫瘍についての話があり良性腫瘍(腺腫、嚢腫)、悪性腫瘍(乳頭癌、濾胞癌、髄様癌、未分化癌)について個々の特徴について説明があり、結節が径3〜4cm以上で増大傾向があり可動性に乏しく辺縁不整、硬い、リンパ節触知等が認められ、画像上悪性が疑われる等の時は良、悪性の判断のため穿刺吸引細胞診(FNAB)が必要となると説明された。

 最後に専門医に送るべき甲状腺疾患をあげられ、多岐にわたる内容の講演を終えられたが、日常臨床において常に甲状腺疾患の存在を意識する必要性を改めて認識させられた。

(西陣・高松 一)

【京都保険医新聞第2659号_2008年10月6日_6面】

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