理事長再任にあたって/被災地復興と社会保障充実実現する新たな福祉国家へ  PDF

理事長再任にあたって

被災地復興と社会保障充実実現する新たな福祉国家へ

理事長 関 浩

理事長 関 浩

 東日本大震災は東北沿岸に壊滅的な被害をもたらした。原発災害制圧の道筋がいまだ見えず、大きな「不安という暗雲」が日本の空を覆っている。国策として進められてきた原発推進には政・財・官・学・メディアが一体として関わってきた。安価、安全、クリーンという神話はまやかしにすぎなかった。加えて、バックエンド事業(再処理を含む核燃料サイクル事業)には驚くほど巨額の費用がかかる。電力業界や省庁の既得権益の壁を排し、自然エネルギー獲得社会へと離陸するべきである。科学、技術力によって立つ日本を目指す限り、東北の地に、民間企業の資金や人材、技術が集まるよう経済特区を実現すべきであり、日本の得意分野、例えばスマートグリッド(次世代送電網)根幹技術を生かし世界一の国際競争力を取り戻してほしい。

 津波に襲われた3県では沿岸部を中心に少なくとも118の医療施設が壊滅的な被害を受けた。長年にわたる医療費抑制策のもとで全国的に公的病院の統廃合が進められ、東北地方ではこの10年間で国公立病院数は26も減少した。被災3県でも公立病院の廃止をはじめ、統廃合、大幅な病床削減や診療科の廃止などが進行していた。このことが震災発生後の医療の確保に影を落としていたことは否めない。被災地にとって地域の医療の確保は復興の要の一つである。4月27日の「集中検討会議」の議論内容―地域保険への統合など公的医療保険の再編、医療・介護の低コスト化、保険免責制の導入、混合診療の解禁などは、疲弊した地域医療をいっそうの窮地に陥れることに他ならない。

 4月5日に国会上程された介護保険改定法案は、「地域包括ケアシステム」を打ち出している。しかし、同案が示すのは、制度の「持続可能性」を前提にした給付抑制策の一環に過ぎない。介護保険制度には保険原理が貫かれ、財政問題が優先され、サービスの対象・範囲・内容の制限が常に図られようとしている。また、介護職による医療行為の実施を、安易に盛り込んだことも重大である。結局のところ「地域包括ケアシステム」は介護保険制度の枠内では対応不能な課題であり、地域の再生は不可能である。次回診療報酬・介護報酬同時改定は、国民の将来の社会保障のあり方を左右する重要な改定であり、拙速に決定されるべきではない。改定作業をいったん凍結し、被災地医療復興に医療の全力を傾注するべきである。

 我々が提案する社会保障基本法の究極の目的は「地域主権」の名のもとに国の社会保障を後退させる改革ではなく、構造改革でもない「新たな福祉国家」、そこでは「社会保障制度の充実により経済の成長基盤を支え、個人の自由と幸福を実現していく」国家である。東北復興、被災者援護のために、社会保障基本法が芯となることが必要と考える。

 最後に、協会は総務、政策、保険、経営及び医療安全対策部会が有効、かつ効率的に機能し、会員各位の健全な医業経営をサポートするとともに日本の医療制度、社会保障制度の発展を目指していきたい。

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