理事提言/予防医学へと舵はきられた…特定健診・特定保健指導

理事提言/予防医学へと舵はきられた…特定健診・特定保健指導

保険部会 吉栖美千子

 近年、生活習慣の欧米化により加速された栄養過多、特に脂肪類の過剰摂取のもたらした腹部肥満が増えている。内臓脂肪症候群すなわちメタボリックシンドロームといわれ、高血圧、糖尿病、脂質代謝異常、肥満によってもたらされるインスリン抵抗性を共通の基盤として相乗的に心血管イベントを発症する。腹囲を生活習慣病とパラレルな指標とすることにも問題は残されているのであるが、これらのファクターに喫煙を加えて生活習慣病を予防しようとして法的整備が行われたのが特定健診・特定保健指導である。

 わが国は戦後ひたむきに、結核の撲滅、皆保険制度に取り組み大きな成果をあげてきた。次いで疾病の早期発見・早期治療を目標として感染症、癌の克服等を目指してきたところである。しかし、医学・医療の進歩、少子高齢化また疾病構造の変化等により、生活習慣病が死因別死亡割合において3分の2以上を占め、その要する費用が国民医療費の約3分の1を占めるようになったことを受け、政府は、国民医療費の適正化を図るとして9兆円の医療費抑制を打ち出した。2006年6月に小泉内閣が成立させた「医療制度改革関連法」はあくまで国民医療費を削減するのが狙いであり、10年にはすべての保険者に対し、医師・医療機関・医師会を動員し、生活習慣病の発症を20%抑制することを目標として特定健診・特定保健指導を義務付け、08年4月から実施された。75歳以上の後期高齢者は対象から外され置き去りにされている一方、健診・指導の実施率、また指導の成果達成率によって後期高齢者医療制度への支援金額は増額というペナルティもある。

 厚労省の見通しでは25年の国民医療費は65兆円、日医の見通しは49兆円と言っている。しかし、いずれにしても、医師の数からいって、それはあり得ない。医師不足・医師の過労が言われて久しいが25年になっても総医師数は増えず、提供し得る医療サービスの総量は、増加率が厳しく抑えられていて30兆円をやや超す程度なのである。1980年代、患者の権利意識が高まって「患者様」と呼ばれ、患者本位の医療が叫ばれたが、今や患者・受診者は自己責任を問われ、まず、肥満を防いでメタボリックシンドロームを起こさないように国、地方公共団体、保険者から求められるようになった。

 日本の医療費は30兆円であるが、外食産業も30兆円である。過食、飽食の自制、運動によっても生活習慣病は減少するであろう。国民医療費の伸びの真相は日医の中川常任理事によれば、脳血管疾患(入院)や虚血性心疾患(入院)の実際の医療費は、人口増減と高齢化によって伸びるべき医療費を下回っている。DPC導入後、長期療養を要する傷病では平均在院日数の短縮化や、療養病床の削減もあり、医療費が抑制されている実態が明らかにされた。悪性新生物においても短期入院、外来化学療法が拡大し高齢者の受療率が高い傷病において、強い医療費抑制がうかがえると公表されている。

 医学・医療の進歩に伴い、良質な医療にはお金がかかる。医療費削減では医療崩壊は止められない。

ページの先頭へ