本の紹介/近藤克則著 『「健康格差社会」を生き抜く』

本の紹介/近藤克則著 『「健康格差社会」を生き抜く』

「健康格差」から「幸福・健康重視」の社会へ

『「健康格差社会」を生き抜く』近藤克則著、朝日新書
『「健康格差社会」を生き抜く』
近藤克則著、朝日新書、780円+税

 見落とされてきた「もう一つの格差―健康格差」という言葉で、この本は始まっています。

 小泉構造改革によって、今まで私たちがあまり感じることなく過ごしてしまっていた「格差」が、鮮明なものとして目の前に突きつけられています。非正規雇用の人たちの厳しい現実や、12年連続して年間3万人を超える自殺者などの報道が連日のように流れています。「格差」という病魔が、国や国民を急速な勢いで蝕んでいます。

 格差社会で生まれた貧困は、その当事者だけでなく、社会全体の健康を蝕みます。所得や学歴、職業階層などの社会的地位によって「いのちや健康にも格差がある」ことを著者は訴え警告しています。

 例えば、メタボリックシンドロームは本当に自己責任によるものなのか? 個人の自己責任だけでは到底説明できず、職業ストレスや環境の影響が大きな要因になっている。個別指導だけでは改善することはできず、個人を取り巻く職業ストレスや環境を改善していかなければならないと指摘されています。このことは、自己責任という誰もが思わず納得してしまう要因にすり替え、国が責任をもって医療・健康政策以外に、本当は行うべき政策を放棄しているのではないかと感じられました。

 このようなことをふまえて、今、私たち一人ひとりができることはなにか、国はどう変わっていかなければならないのかを解りやすく書かれています。

 健康格差が小さい社会とは、心理社会的なストレスとそれによる不安、不健康や「避けられる死」が少ない社会であり、健康格差という視点にたって、その原因となる社会環境を解明し、日本が、経済と並んでwell-being(幸福・健康)を重視する社会を目指して、一歩でも前進して欲しいという著者の思いが伝わってきます。

 是非、多くの方々に読んでいただき、役に立てていただきたいと思いご紹介しました。

(政策部会・渡邉賢治)

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