日本の良さを再認識することで見えてくる医療崩壊阻止の道筋

日本の良さを再認識することで見えてくる医療崩壊阻止の道筋

 世界的な金融不安の中、相変わらず新聞紙上を賑わしているのが妊婦のたらい回しをはじめとする医療問題である。厚生労働省はその原因に医師数不足、システムの不備などを理由に挙げているが果たしてそうであろうか。いくら医師の数を増やしても偏在は避けられないし、システムが充実しても医師各々のインセンティブが高まらないとどうにもならない。現状では我々がいくら真摯に真剣に取り組んでも結果が良ければ当たり前、悪ければ訴えられるといっても過言ではない。誰がこの状況でハイリスクな患者を進んで受け入れるであろう。日本の医療をこういう最悪の状況にしたのは、マスコミもさることながら一部国民自身(国民性?)にあるのではなかろうか。

 最近ネットの掲示板に「英国においては、患者の立場からするとこの国の医療は終わっている」という内容の投稿があった。それによると英国の医療は、完全に公的医療(NHS)と自由診療とに分けられており、NHSのいわゆるかかりつけ医(GP)は完全予約制で予算も制限されているため、高熱があっても予約は数日後、ろくな検査機器もなく処方などもってのほか、せいぜい点滴がうけられたら御の字だそうである。それに対し自費病院の方はかなりハイレベルな医療が受けられるとのことである。

 すなわち英国民は医療、特にGPには何も期待しておらず、あきらめの境地であるとのこと。だが英国人は我々日本人が想像しているよりよほど寛容であり、自己主張が強いと言われるが、クレーマー体質の人は日本人より明らかに少ないし、非常識な権利意識を振りかざす人も明らかに少ないらしい。英国に限らず、他の医療先進国(シンガポールや台湾などのアジア諸国も含めて)では「質の高い医療=自己負担率が高い」ということが常識のようである。

 わが国も自由診療、混合診療の導入でその方向に進みつつあるが(これはなんとしても阻止しなければならない)、一方、わが国の医療は国民皆保険でありながら、つい少し前までWHO第1位だったことを日本人の多くの方はご存じないであろう。この素晴らしい日本の医療制度を維持していくためにも、一般の国民にも他の先進諸国の実情をもっと把握し、日本ではいかに低価格で素晴らしい医療が受けられることを再認識していただき、少しでも医師のモチベーションが上がるような環境作りをしてもらいたい。それにより患者と医師がより良い信頼関係を作り上げることができ、現在の医療崩壊の解決の一助になるのではなかろうか。

(西京・林 一資)

【京都保険医新聞第2665号_2008年11月17日_6面】
 

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