政策論考 協会けんぽと国保法等改正案を巡る問題から 都道府県単位の医療保険一元化を考える

政策論考 協会けんぽと国保法等改正案を巡る問題から
都道府県単位の医療保険一元化を考える

 2010年5月12日に成立した「医療保険制度の安定的運営を図るための国保法等改正案」(以下、法案と表記)には、市町村国民健康保険の都道府県単位の広域化推進とともに、「協会けんぽ」の保険料上昇抑制を図ることを目的にした健康保険法改正も盛り込まれている。国会では「(改正は)健保組合への一方的なつけまわしを行うもの」「ただちに撤回すべき」との厳しい追及がなされたが、法案は与党の賛成多数で成立した。この問題を通し、医療保険の都道府県単位の一元化に関する課題も見えてきた。

協会けんぽの財政悪化と支援策

 全国健康保険協会が管掌する協会けんぽは、06年に国会成立した医療制度改革関連法により、旧社会保険庁による政府管掌健康保険の廃止に伴い誕生した。労働者の実に約5割、約1960万人が加入するわが国最大の健康保険であるが、この間、財政悪化に悩んでいる。高齢者医療制度への財政支援増大、09年夏以降は被保険者の賃金・一時金の急激な低下で保険料収入も減少、新型インフルエンザによる保険給付費増等を主要因に、4500億円、単年度収支差額で6000億円ものマイナスが生じるという。当然のことながら、保険料収入が低下しても、給付が減るわけではない。むしろ、増加する要因の方が遥かに多い。09年11月段階で10年度の保険料率がそれまでの8・2%から9・9%(全国平均)へ大幅に引き上がる見通しとなった。ちなみに保険料率には10%の法定上限が定められており、上限いっぱいまで料率を引き上げても、必要な医療費を確保できない可能性さえある。

 このように財政悪化に瀕する協会けんぽへの支援策として、昨年12月、政府は財政再建のための特例措置を行う方針を固めた。それは、後期高齢者医療制度への拠出金(支援金)の負担方法を、同じく被用者保険である「健保組合」「公務員共済」との間で変更すること。10年7月以降、国庫補助率を現行の13%から16・4%に引き上げると同時に、単年度収支均衡原則を3年間の収支均衡で可とする特例措置を行うこと。これらにより、保険料の引き上げ幅を、約0・6%引き下げ、平均9・34%に抑えることができるという。これら特例措置の実施が、法案には盛り込まれている(図1)

平成22年度の協会けんぽの国庫補助等のイメージ
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 一方で、健保組合等は「負担増」となる。国は、10年度(7月実施)について、国庫補助率引き上げのための所要財源のうち半分の610億円を「真水」(純増分)で投入。しかし、残りの610億円は、結果として健保組合等の負担を強化し、その代わりに浮いた国庫補助分を協会けんぽの補助へ付け替える形になる。現行の仕組みでは後期高齢者医療制度に対する支援金は加入者数に応じて算定している。しかし、法案では算定方法に被保険者について所得を加味する「総報酬割」を導入。これにより、健保組合の支援金増加分は10年度はプラス330億円、共済でプラス230億円となり、協会けんぽ自身の負担増も含めて合計610億円が、国庫補助額から削減され、これが協会けんぽへの国庫補助率引き上げの財源に使われる。さらに、11、12年度は満年度ベースで約1820億円が必要となるため、真水の国費が910億円となり、健保組合が500億円、共済が350億円の負担増になるという。

 なお、今回の一連の措置で市町村国保も年間1世帯あたり1万2500円軽減となる他、全国で1462ある健保組合のうち、財政力の弱い550組合は負担軽減になるとされる。

 また、健保組合等の負担軽減を図るため、「高齢者医療運営円滑化事業」が拡充され、10年度は150億円が追加的に措置される。これにより、健保組合等の負担の圧縮も図られる。

協会けんぽ保険料率の決定プロセス

 協会けんぽの保険料率は都道府県単位に決定されるが、料率は協会本部が決め、厚生労働大臣の承認を得る仕組みである。

 都道府県別保険料率の算定基礎となるのは主に療養の給付部分(傷病手当金等の現金給付部分の多くは全国一括の負担分として算定)。各支部の総給付費を被保険者の総報酬額で割ると単純な所要保険料率が導き出され、そこへ、現金給付や後期高齢者支援金部分の全国一括保険料分(3・59%)を足せば、基本となる保険料率が計算される。さらに最終的な保険料率は「年齢調整」と「所得調整」の2つの調整値を加えて決定する。調整が設けられた根拠は次のように説明できるだろう。被保険者の平均年齢が高い支部ほど、1人あたり平均保険料が高くなるため、これを調整する。被保険者の標準報酬の平均額が高いほど、多く保険料収入が得られるため、保険料率を抑えることができることになり、平均収入の高い地域ほど、保険料が安いという「逆進性」が生まれるため、これを調整する。こうした過程を経て保険料率が決定される。

 ちなみに、10年度の京都府の保険料率は9・33%(09年度8・19%、介護分除く)であり、全国平均並み。最も低いのが長野県の9・26%、最も高いのは北海道の9・42%である。

都道府県単位の保険料率と保険者機能強化

 そもそもなぜ、政府管掌健康保険が解体され、協会けんぽは設立されたのか。

 05年に厚生労働省が示した医療制度構造改革試案には「保険財政運営の規模の適正化、地域の医療水準に見合った保険料水準の設定のため、保険者について、都道府県単位を軸とした再編・統合を推進する。これにより、保険財政の安定化を図り、医療費適正化に資する保険者機能を強化する」と述べ、「都道府県ごとに地域の医療費を反映した保険料を設定する」としている。噛み砕いて言えば、都道府県ごとの医療費を反映した財政とすることで、医療費の増減がそのまま保険料にも反映することとなり、保険者は財政を安定させるため「医療費適正化」に向けた努力(保険者機能の発揮)を行うようになる―というねらいが語られている。

 協会けんぽ自身も、都道府県単位の保険料率の意義として次のように述べる。「都道府県の地域差を反映した保険料率となり、今後、疾病の予防などにより地域の加入者の医療費が下がれば、その分の保険料を下げることのできる仕組み」である。

 今回の法案審議ではこの「保険者機能」が話題になっている。「健保組合の中には協会けんぽに比べて加入者の平均年齢が高いが、加入者1人あたりの医療費が低いところが113組合ある」「健保組合は人間ドック等の健康診断、健康づくり、レセプト点検等の医療費の適正化など、非常に保険者機能を発揮しており、ありがたいと思っている」と、長妻厚生労働大臣も発言(4月9日衆議院厚生労働委員会)しているように、健保組合からは保険者機能を発揮して医療費高騰を抑えているのに、協会けんぽのためになぜ、負担が増えねばならないのかとの批判がある。逆に、厚生労働省の省内事業仕分け(4月26日)の場では、協会けんぽの健診実施率の低さ(08年度実績29・2%、目標54・4%)に批判が集中した。席上、足立厚生労働政務官は「国会審議では、保険者機能を果たしていない協会けんぽに対して、保険者機能を果たしている健保組合が負担するという話になっている」と指摘したという。ここで語られている保険者機能は、「医療費高騰を防ぐ保険者自身の努力」(≒医療費適正化の努力)という程度の意味であろう。

 協会けんぽは、各都道府県支部間で医療費適正化を競わされながら、健保組合等からもその努力を厳しく問われる状況に立たされている。

地域保険一元化を進め都道府県単位の医療費抑制機能を強化

 その脈略から政権与党である民主党の医療政策が、それをさらに一歩踏み込んで構想したものだということがわかる。同党の「医療制度改革案」は次のように述べている。「年齢リスク構造調整の究極の形は『医療保険の一元化』であり、保険者機能が発揮されるためには、医療提供体制を計画する範囲と保険がカバーする範囲が同一であること、すなわち『健康生活圏』にあることが望ましい」。

 医療提供体制を計画する範囲、という言葉に注目したい。これは現医療法を前提とすれば、都道府県を指すことは明確である。その意味で、協会けんぽも財政運営は都道府県化されているため、すでに合致している。

 しかし、合致しない問題がある。それはいずれの保険に加入する住民であっても、同じ医療機関にかかっているという当たり前の事実である。

 都道府県は、医療提供体制を通じ医療費適正化を進める義務が課せられている。しかし、都道府県はいずれの保険制度をとってみても保険者ではない。給付費の抑制を実際に行い得るのは保険者である。逆に、保険者は給付費を抑制するために医療提供体制を改変することはできない。それは、都道府県が担う範囲である。

 しかし、いっそのこと都道府県単位に医療保険が一元化されたならば、都道府県単位の医療費適正化システムが、より実効性のあるものとなるのは確実である。昨年1月の京都府による国保一元化提案を例にとるまでもなく、都道府県単位の一元化が強調される大きな理由がここにある。

財政問題先行の議論で医療保障の責任は忘却の彼方

 協会けんぽの保険料率問題を通じて見えてくるものは、それぞれの保険者の都道府県単位化を進めても、結局のところ制度を一本化、もしくは財政の一元化を進めなければ、都道府県が「責任をもって」医療費を適正化することは難しいということだ。

 また、健保組合等の立場にしてみれば、都道府県単位での医療費適正化が進まなければ協会けんぽの財政悪化が今後も続き、今回のような「負担増」を押し付けられるのはたまらないという意識が働くだろう。

 以上の2つの現実は、少なくとも協会けんぽも視野に入れた都道府県単位の医療保険一元化を押し進めるファクターの一部となるだろう。

 一方、民主党は「歳入庁」をつくり、税と保険料を一体的に徴収し、医療保険の一元化が可能な仕組みづくりを構想(図2)していると考えられる。しかし、健保組合や共済組合も含めた都道府県単位の一元化となれば、決して簡単な道ではない。国会審議においても「健保組合はもう不用と考えているのか」との追求がなされている。

 いずれにせよ、一連の医療保険広域化をめぐる議論は、どの断面から切ってみても「医療費適正化」という財政問題先行の議論でしかない。医療問題は国民の生命と健康の問題であること、医療保障の責任は国にあることが正面から取り上げられているとは言い難い。「次の医療制度」の論議が、このような形でしか展開されない事態は極めて危険と言えるだろう。

保険制度の改革ビジョン
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