政策解説 国保広域化で府が支援方針 国の責任による医療保障が原則だ  PDF

政策解説 国保広域化で府が支援方針
国の責任による医療保障が原則だ

 京都府は2010年12月27日、「京都府国民健康保険広域化等支援方針」(以下、支援方針)を策定・公表した。

 同方針は、10年5月19日公布の改正国保法(医療保険制度の安定的運営を図るための国民健康保険法等の一部を改正する法律)により策定するもので、都道府県サイドからの市町村国保の都道府県単位化に向けた支援方針を定めたものである。

 今回策定された方針は、広域化に対する京都府のスタンスとして、「国民皆保険を維持し、府民の公平性を確保し、府民の健康を守るためには、将来的な医療保険制度の全国規模の一元化を目指しつつ、まずは、ナショナルミニマム確保の観点から市町村国保への国費投入を充実するよう国に求めるとともに、市町村国保を都道府県単位で一元化し、広域自治体である京都府がその運営に参画することにより、京都府と市町村が協力して国保を運営していくことが必要である」との認識を示し、2018年度からの府単位での一元化に向けた課題の解決について、一定の方向性を打ち出すものとなっている。

国保の都道府県単位化の流れ

 市町村国保の都道府県単位化は、後期高齢者医療制度廃止後の新制度を検討してきた「高齢者医療制度改革会議」の「最終とりまとめ」(10年12月20日)でも、「第一段階」である75歳以上の国保被保険者に関する医療費の都道府県単位化に続き、2018年には、高齢者を含む全年齢での国保都道府県単位化を目指す方向が示されている。

 しかし、市町村国保を都道府県単位化する方針は、後期高齢者医療制度廃止に伴う、新たな制度創設の必要性から、にわかに浮上したわけではない。政管からの移行である協会けんぽや後期高齢者医療制度自体が、都道府県単位化された医療保険制度であることからもわかるように、国による医療保険制度再編のベクトルは、この間一貫して都道府県単位化に向かって進んでいる。極論すれば、今や「後期高齢者医療制度の廃止」も、その「都道府県単位化推進の梃子」とされているに過ぎないとも言える。

 これは、医療制度構造改革で都道府県単位の医療費抑制策を推進してきた国が、さらに医療保険制度そのものを、「国の制度から地方の制度へ」変えようとするものである。

 国民皆保険制度の要である市町村国保は、市町村を保険者とした制度であるため、あたかも地方自治体固有の制度であるかのように錯覚されやすい。しかし、国民皆保険を創設したのは国であり、これを維持する責任は国にある。市町村国保はそれを国からの委任事務として具体化させただけのことである。これに対し、都道府県単位化は「国の医療保障責任」自体を曖昧にし、地方自治体に転嫁させようという狙いが見えている。結果、後期高齢者医療制度や協会けんぽなどと同様に、保険財政や保険給付に対する最終責任が、地域医療費に見合った保険料や提供体制が求められるといった形で、地方自治体や、そこに住まいする被保険者・地域住民に転嫁される可能性が高い。国が責任を持たない医療保障制度など本来あり得ず、このような構想自体が全く受け入れる余地のないものであることは、誰にとっても本来自明なことのはずだ。

 にもかかわらず、現実には都道府県単位化に対し、むしろ市町村をはじめ地方自治体自身がそれを容認しようとし始めている。その背景には、市町村が国保で厳しい財政運営を強いられている、切羽詰まった現実があることは間違いない。高齢化の進展や就業構造の変化等により、保険料負担能力の低い人たちが被保険者の多数を占めるようになった市町村国保の現実が、国の都道府県単位化方針を後押ししてしまっているのだ。

 しかし、厳しい国保財政をめぐる状況の解決には、必要な医療保障のための財政保障を国がその責任において行うという方向以外、道はない。

府方針の評価すべき点と課題

 こうした状況下、今回示された京都府の支援方針にはいくつか評価すべき点がある。

 何より、京都府の支援方針は、医療保険制度の将来像について「都道府県単位化」が最終目標だとは位置づけていないことである。支援方針は「国民皆保険制度を堅持し、府民の公平性を確保し、府民の健康を守るためには、将来的な医療保険制度の全国規模の一元化を目指しつつ、まずはナショナルミニマム確保の観点から市町村国保への国費投入を充実するよう、国に求める」ことを前置きして、当面の対策として、都道府県単位国保一元化を打ち出している。国の責任による医療保障原則を明示したことは大切な点である。

 また、財政問題をはじめとした市町村国保の困難な現実の解決に向け、都道府県が積極的に技術的助言等を行うことは必要な役割であり、その意味で、例えば以前から市町村によって著しく対応の差異が指摘されている一部負担金減免について、府として「運用を支援」すると述べていることも評価できるだろう。

 しかしながら、国の進める都道府県単位化の流れの中で策定された支援方針であることは事実であり、京都府が府民の生命と健康を守る地方自治体の本旨に立ち、それらの積極面を今後本格的に展開し得るのかという疑問は拭えない。この点では、府に対し、府の言う「医療保険制度の全国規模の一元化」も含めた将来像を実現するための具体的な工程表を、府民の前に提示するよう求めたい。

 今後支援方針に則り府内では、全年齢での国保都道府県単位化を目指し、(1)京都府と市町村の協議会等を設置し都道府県単位の国保一元化準備を進めること、(2)保健事業も含めた事業運営広域化を行うこと、(3)財政運営の広域化により「保険料の市町村格差の解消・財政の安定化」をはかること、(4)「保険料の収納率目標」「赤字解消の目標」を「標準設定」し、財政の安定化・公平性の確保を行う等、具体的なメニューが進められていく。その中で今後起ってくる問題に対しては、協会として実情を調査し、積極的に批判や提言活動を行っていく予定である。

■京都府の支援方針

 府は支援方針の中で、(1)府と市町村の協議会等を11年度中に設置、(2)収納対策や医療費適正化策の共同取組による効率化等を図る、(3)財政運営の広域化推進により財政安定化、公平性の確保等を図る、(4)保険料の収納率目標、赤字解消の目標等を設置、(5)地域医療への支援―を具体化するとした。このうち、(4)の赤字解消には、市町村が累積赤字を長期の地方債に振り替えられる制度を創設し、国が財政措置するよう求める。また、医療費が府内で平準化されるまでは、不均一保険料率を認め、差額分に国費を投入する制度を創設することも国に求める。これらを進めることで18年度を目途に都道府県単位での一元化の実現を目指す工程表を示した。

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