政策解説 京都府が地域医療構想策定部会を初開催 二次医療圏毎の医療需要推計データ(厚労省)示す  PDF

政策解説 京都府が地域医療構想策定部会を初開催
二次医療圏毎の医療需要推計データ(厚労省)示す

  京都府は8月20日、医療審議会に設置した地域医療構想策定部会(部会長・福居顯二京都府立医科大学大学院教授)の第1回会合を開催した。同部会は、2014年に国会成立した医療・介護総合確保推進法に基づく地域医療構想(従前の都道府県医療計画に盛り込む)策定を担う。地域医療構想について国が「法律上は2018年3月までであるが、2016年半ば頃までの策定が望ましい」としたことを受け、概ね2カ月に1度の頻度で開催される模様。 

病床機能をめぐって進む改革

  国の医療制度改革は、都道府県に医療費管理・抑制を担わせる仕組みづくりであり、医療・介護サービス提供体制改革と国保都道府県化を通じてそれは進められる。地域医療構想はその一環として、重要な位置を占める「2025年に向け、病床の機能分化・連携を進めるために、医療機能(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)ごとに」「医療需要と病床の必要量を推計し、定める」構想である。
 14年10月には策定作業の一環である第1回病床機能報告が実施された。病床機能報告では、毎年7月1日を基準日に一般病床・療養病床を持つ全病院・有床診療所が都道府県に対し※1、自ら持つ病床の機能を現在と6年後について、報告するもの。(表1)
 さらに15年6月には政府の「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」(座長・永井良三自治医科大学学長)が「第1次報告」を公表。政府自身が全都道府県の「必要病床数の推計」を発表した。

府の病床数すでに「過剰」

 都道府県は必要病床数推計と病床機能報告の結果を見比べつつ、地域医療構想策定にあたることになる。今回、初会合となった策定部会では、府当局(所管は医療課)が厚生労働省によるデータクリーニングを終えた病床機能報告の結果を公表。府全域だけでなく、各医療圏の状況を示す資料も配布した。※2
 これによると、医療機関が自己申告した6年後の医療機能は、高度急性期が全体で+404、急性期▲1,113、回復期+1,282、慢性期▲574となった。
 また部会では同時に、国の提供した2025年の病床機能別医療需要推計も医療圏別に公表した。国の医療需要推計は医療資源投入量=診療報酬額で計算され、府計で13年の4万6,557人/日から、25年には6万5,490人/日、差し引き1万8,933人/日の増大が見込まれている(在宅医療含)。ただし、丹後医療圏では在宅医療を除くすべての機能が需要減とされる等、地域差がある。
 以上の需要推計を(在宅医療を除き)病床数推計に置き換える時に、国は全国一律に設定した病床稼働率(高度急性期75%、急性期78%、回復期90%、慢性期92%)で割り戻している(国はこの方法で推計した2025年の病床数推計を示しており、京都府では最大900床のマイナスとされた)。
 2013年に比べ、全体としては需要が伸びているのに、病床数推計で減少ということは、国が開発した医療需要推計方法でみれば現在の病床数は全体として「過剰」であると国は推定していることを意味する。

京都市は個別新組織立ち上げ

 策定部会では、京都府が「地域医療構想策定の進め方について」の考え方を示した。
 府では、医療圏ごとの「地域保健医療協議会」が設置され、「2007年6月から、二次医療圏を基本とする単位で、保健所が事務局となり、圏域内の保健・医療・福祉の関係団体、市町村、消防組合等を構成員とした『地域保健医療協議会』を設置し、新しい保健医療計画の重要課題である主要な疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)や小児医療等医療事業に係る連携のあり方と対策をテーマに検討」※3している。この組織を医療・介護総合確保推進法に定められた地域医療構想実現のための「協議の場」に位置付け直す。
 ただし、京都・乙訓医療圏の協議会に京都市は参加していない(つまり260万9,084人の府民のうち146万8,768人、56%の人口※4を擁するにもかかわらず、京都市は府が設定した医療の在り方検討の場に参加していない)。そのため、新組織を設置し、乙訓地域と分離して議論を進めるという。
 また、会議では「将来推計に当たって、各団体から提供いただけるようなデータがあれば事務局へお知らせ願いたい」との趣旨の発言があった。これは協会も本紙等を通じ繰り返し指摘しているように、レセプトデータに基づく推計で医療需要が正しく見込めるのかとの疑問が込められたものではないか。
 さらに部会では、地域医療構想区域について、二次医療圏を基盤としつつも、国が「高度急性期は」「必ずしも当該構想区域で完結することを求めるものではない」との考えを示していることから府での対応を協議した。

18年から都道府県主体の抑制策が本格化

 2018年が地域医療構想を練り込んだ第7次医療計画(6カ年計画)のスタート年である。同時に都道府県化した国保が動きはじめ、市町村では第7期介護保険事業計画(3カ年計画)が策定される。そして、都道府県は医療計画・地域医療構想に基づく提供体制管理と都道府県化した国保の財政運営と整合する形で第3期医療費適正化計画(6カ年計画)をスタートさせる。医療費適正化目標と地域医療構想における医療需要推計をリンクさせ、都道府県を主体とした医療費抑制政策は本格化するのである。
 最近、国保改革や提供体制をめぐり、骨太の方針にもみられるように国は「地域差」の是正を強調している。医療費の少ない都道府県を標準的な集団に、標準を超える都道府県に医療費抑制努力を課す手法の開発が危惧される。それは次のようなロジックで展開されるのではないか。 
 
都道府県間で、入院受療率がなぜ違うのか?
→それは、都道府県の努力が足りないからだ。不要な病床が多すぎるのではないか?
 都道府県間で、平均在院日数がなぜ違うのか?
→それは、都道府県の努力が足りないからだ。
 入院させる必要のない人を入院させているのではないか?
  都道府県の中でも、市町村同士が、「地域差」を理由に、競争をさせられる。
 市町村間で、保険料に違いがなぜあるのか?
→それは、市町村の努力が足りないからだ。
 住民にむだな医療費を使わせているのではないか? 不健康な住民を放置しているのではないか?

地域性・個別性に基づく需要推計を

 国の制度設計は、地域とは遠い場所でなされる。病床数推計や医療需要推計にみられるように、画一的な手法でなされてしまう。しかし、言うまでもなく地域における医療の提供とは、医療者が医学的専門性に基づき、患者一人ひとりの個別性(身体条件だけでなく、地域的・経済的要因も勘案して)に基づいてなされる。その需要は、レセプトデータだけでは到底導き出せない。ましてや、医療にアクセスできない住民の存在を無視した需要推計に、地域の医療を押し込んで矮小化することは許されない。
 
※1 都道府県に報告といっても、実際には国が設置した共通サーバーへの報告である。なお、データ集約はみずほ情報総研株式会社に業務委託。
※2 京都府はホームページにより詳細な結果を掲載。医療圏別に病院名も公表された。
※3 京都府ホームページの解説文より抜粋・引用。
※4 京都府の人口推計および世帯数 2015年8月1日現在より。
 
 

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