改訂版 医療安全対策の常識と工夫(39)  PDF

改訂版 医療安全対策の常識と工夫(39)

トラブルの気配?チェック(1)「診断」

 診断におけるトラブルは大きく分けると、「誤診」と「診断の遅れ」になるでしょう。何れも患者さんの予後に多大な影響を与え兼ねないものです。特に1990年代後半からの傾向としては、(高齢者であっても)癌に関する診断へのクレームがあげられます。患者さんや家族の言い分としては「何れは死ぬとしても事前に言って貰えれば色々と用意もできたのに」「もう少し早く見つけて貰えればあと1年くらいは長生きできたはず」というものがあるようです。ここでは論点整理のため告知の問題には触れませんが、患者さん側からすれば、もっともな意見かも知れません。医療機関側もその気持ちを汲んで反論を控えざるを得ない場面もあるようです。また、裁判でも末期癌の患者さんの余命を認定して、医療機関側への賠償命令の判決も幾つか出てきて、もはや珍しいケースとは言えなくなっているのが現状です。

 このようなことを知れば、無意識にも診察に関して悲観的になってしまいがちでしょうが、次のことが一つのポイントです。つまり、その時こそ何故、癌と確定診断しなかったのか、あるいはできなかったのか医学的に考えてみて下さい。万一、その理由が不注意や怠慢に起因するものであったならば、確かに医療過誤となります。しかしながら、現代医療の持つ技術的限界や、その他やむを得ない事情はなかったでしょうか? 今一度検討すべきでしょう。診断に関するトラブルは医療水準の点からも、その是非の判断が非常に困難な場合がありますが、先ずは冷静になって、医学的にその診断に至った過程を説明できれば、医事紛争の予防ともなり得るでしょう。結果的に誤診や見落としがあったとしても、全て医師に賠償責任が発生するとは限らないのです。

 次回は、2番目のチェック項目である「適応」について、お話します。

ページの先頭へ