改定版 医療安全対策の常識と工夫(9)

改定版 医療安全対策の常識と工夫(9)

「和解」と「判決」

 医療裁判の特徴として、「判決」にまで至らずに、「和解」で終息するケースが多いということが挙げられるでしょう。「和解」とは、医療機関側と患者側で妥協点を見いだし、双方がそれに合意することで、「和解」となれば今後の判例となることはありませんし、裁判官が判決文を作成することもありません。これは係争内容が「医学・医療」という、余りに専門的な分野であるということが大きな理由の1つであると考えられます。裁判官も医学に関しては全くの素人ですので、判断もしづらく判決文が書き難いのでしょうか、我々が和解案を読むときに、裁判官の苦悩や迷いも垣間見られます。

 また、裁判になって、一旦「判決」が下されても、その判決に不服を申し立てて、控訴することができます。ご存知の通り、我が国は三審制を採っていますので、通常、京都での医療裁判は京都地裁→大阪高裁→最高裁、という順序で進みます。京都府保険医協会のデータによれば、最高裁まで進むことは極めて稀で、多くの場合は第一審で終結しています。

 そこで、お考え願いたいのは、安易な姿勢で金銭的解決を主目的とした「調停案(いわゆる和解案)」を受け入れないことです。裁判をとにかく何でも良いから早く終わらせたい、と医療機関がお考えになるのはごく自然のこととして理解できるのですが、先にも述べた通り、例え裁判官であっても医学に関しては素人です。必ずしも医学的に整合性がある「和解案」が提示されるとは限りません。裁判中の過度の労力や疲労は想像に難くないのですが、納得のいかない金銭的解決には、無理に応じないことをお勧めします。長い目で見れば医療全体を歪めることになりますし、決して一般の患者さんの為にもならないのではないでしょうか?

 次回は、裁判の後日談についてお話しします。

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