府内の医療はいま 中丹地区医師会にきく

府内の医療はいま 中丹地区医師会にきく

 中丹医療圏は、東の舞鶴市と綾部市、西の福知山市の3市からなる。3地区それぞれの中核病院を中心に、独立して患者の受療エリアを構成。中丹医療圏の人口10万人対医師数は200.4人(06年)とほぼ全国平均に近いが、近年は舞鶴の病院勤務医の減により、02年との比較では府内で唯一減少している。その舞鶴で進む公的病院再編の議論が注目されている。それぞれの市に対応した医師会があり、現状について舞鶴医師会の荒木義正会長、綾部医師会の安村忠樹会長、福知山医師会の高尾嘉興会長にお聞きした。

福知山 高尾嘉興 会長
看護師不足が深刻な影響 地方での人員確保が課題

 福知山市内の医療施設従事医師数は全体としてはほぼ横ばいであるが、科目によっては勤務医の体制に刃毀れのような状況がおきてきている。それ以上に同地区で深刻に受けとめているのが看護師不足。市の中核である市立福知山市民病院と京都ルネス病院でも影響が大きい。06年から始まった7対1の看護配置基準を満たすため、市民病院では厳しい対応が迫られている。中丹は就業看護師数の水準は京都・乙訓に次いで高いとされているが、今は医療機関以外でも就職先が多く、確保が難しくなっている。

 その中で、地域がん診療連携拠点病院である市民病院では、脳神経外科で常勤2人から常勤1人、非常勤2人体制となったため、脳腫瘍や脳卒中の治療に影響が出ている。こうしたこともあり、部位にもよるが脳腫瘍や肺がんの手術は京都市に送られているのが現状だ。

 脳卒中の急性期(救急)は市民病院と京都ルネス病院が担っている。回復期については、リハ病床が市民病院に44床あるが全体としては充足しているとはいえない。また、中丹でt―PAの経静脈血栓溶解療法を実施できる医療機関は舞鶴にしかなく、市民病院で実施できる体制づくりが課題となっている。

 周産期では、周産期医療2次病院である市民病院にNICUの設備はあるものの、施設基準を満たせるだけの小児科医の体制確保が現状では厳しい。

 一次救急では、休日急患診療所のほか、在宅当番医制(合併前の旧3町除く70歳未満)で対応。当番医の標榜科目を明らかにして、市民病院とルネス病院がバックアップすることでスムーズに対応できている。小児救急は市民病院に集中しており、特にコンビニ受診への対応から負担が増えている。

 体制を立て直すには、医師の増員が不可欠だが、医師養成数1・5倍増だけでは地域格差・偏在は解消しない。地方でもやりがいを持ってやれるよう待遇改善が必要。特にへき地医療はもちろん、救急や産科、脳外科など大変な科を充足させるには十分なコストをかけるべきだ。

綾部 安村忠樹 会長
理想は地域内での完結 充足と言えないまでも対応

 綾部市は、中心部に中核となる綾部市立病院と、二つの民間病院があり、舞鶴・福知山両市と接するが、地域を越えての患者の行き来は少ない。

 その市立病院で数年前、医師の不足から救急の当直医確保がままならず、大変厳しい時期があったが、現在はその時期ほどではなくなっている。救急では中丹に病院群輪番制があるが、実態は地域を越えることはほとんどなく、各市ごとの対応となっている。

 小児救急についても、綾部市立病院2人、京都協立病院1人の小児科医で対応。この負担軽減のために、開業医がある程度分担するシステムを検討しようとしたが、その段階から進んでいない。

 いわゆる4疾病のうち、がんについては、拠点病院はないが、患者の流れはほとんどが市立病院。そこから部位によって大学病院等へ送られる。脳卒中についても、ほぼ市立病院だが、4年前まであった脳神経内科の常勤複数体制がなくなり、今は重症患者は舞鶴に送らざるをえなくなっている。

 その後の在宅医療については、かかりつけ医のいない患者が希望する場合の受け入れ窓口を、08年から医師会に設置して、7人の医師が手挙げで対応している。開始から1年の利用実績は5人。患者が困ることのないように、十分といえないかもしれないが連携をとれるようにしてきた。

 また周産期については、市立病院である程度の異常分娩まで対応できるが、手に負えない場合は府立医大までヘリで搬送している。分娩については出産数も多く、里帰り出産にも十分対応できている。

 市内に無医地区が4カ所、へき地診療所3カ所を有するが、最も遠方からでも中心部まで救急車で30分の距離。市立病院の医師や開業医が週1、2回の診療で維持している。

 地域内で最低限の医療供給はできているとは思っているが、本当に充足しているかといえばキリがない。地域内で完結が理想だが、いろんな意味で厳しいので、状況に合わせて対応していくしかない。

 現在、医師会員二十数人のうち半数が70歳以上で、若手は全員が理事となって奔走しているが、いろいろな対策に手が足りていないのが現状だ。

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舞鶴 荒木義正 会長
4病院の再編・連携がカギ 北部全体の体制にも影響

 舞鶴における医療提供体制の課題は、何といっても舞鶴医療センター、舞鶴赤十字病院、舞鶴共済病院、市立舞鶴市民病院の4病院の再編である。

 現在の医療提供体制では、病院間での役割分担がある程度できているところと、そうでないところがある。医療計画で盛り込まれた4疾病5事業に照らして見ていくと、がんは医療センターが拠点病院であり、血液のがんについては日赤病院が対応している。脳卒中の急性期は医療センターが対応、回復期は日赤病院・市民病院が担っている。急性心筋梗塞は共済病院が対応。お産も共済病院が担っている。

 一方で、救急医療は市民病院を除く3病院で対応しているが、脳外科のある医療センターでは整形外科が受けられず、交通事故で外傷があるけれども意識レベルも低いという状況などでは医療センターに搬送するかどうかで、救急隊にストレスがかかっているのではないか。土日は輪番制を取っているが、平日は連携体制がない。そのため3病院いずれにも内科の当直がなく、市外の病院を利用したこともあった。4病院で約100人のドクターがいるにもかかわらず、分散して薄まってしまっている。土日は輪番に当たっていないところも、内科・外科それぞれに当直を置くので、二重三重で非効率な救急体制となっている。

 産科は共済病院が担っているが、NICUのある医療センターでは分娩を取り扱っていない(※調査時。9月から産科2人体制となっているが、今後の動向は未定)。NICUには、共済病院からの搬送に限らず、丹後中丹一円から受け入れがあり、定員が一杯のときはヘリで京都市内に搬送することもあった。

 このような状況を受けて、4病院が統廃合し足りない機能は補完することで、すべての診療科に対応でき、舞鶴市民は市内の病院で診ることができる体制を、まず整備することが重要である。またそうなれば、舞鶴のみならず北部のマグネットホスピタルとして、医師派遣を含めた新たな急性期病院としての機能が期待できる。

 ただし、統合への道筋は順調とは言い難い。しかしながら、再編問題がうまくいかなければ、勤務医の疲弊はますます進むだろうし、開業医も疲弊していくだろう。2年前の勤務医アンケートでも65%の先生が、「長く舞鶴にいる気はない」と回答しており、この現状を、府・市・4病院の設立母体はよくよく考えるべきである。

 ※取材後の9月28日、共済病院が再編協議からの脱退を表明。3病院による再編協議が進められる。

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