府“あんしん医療”中間報告に意見

府“あんしん医療”中間報告に意見

 協会は1月22日、京都府の「あんしん医療制度研究会」がまとめた中間報告に対するパブリックコメントを提出した。同研究会は昨年末、6回にわたる検討結果を中間報告「京都府民が安心できる医療制度の構築に向けて」に取りまとめ、パブリックコメントを募集していた(本紙第2722号で既報)。1月25日に開かれた第7回検討会で、協会提出分も含め、集約した意見が紹介された。同研究会は、これらも踏まえた上で3月に検討会を開催し、最終報告を取りまとめる。

あんしん医療制度研究会〜京都府民が安心できる医療制度の構築に向けて〜中間報告へのパブリックコメント

2010年1月22日
京都府保険医協会 副理事長 垣田さち子

1.「第1章 調査研究の背景」「第2章 調査研究の目的」について

 中間報告では、保健医療政策に関する都道府県の役割として、「医療計画、健康増進計画、介護保険事業支援計画及び医療費適正化計画を相互に調和のとれた形で策定し、その成果を検証しつつ計画の改定を行うなど、関係者の役割分担の決定を含め、総合的・計画的に施策を実施することとされている」と述べ、都道府県の保健医療政策に関する役割を述べている。

 「役割」のうち、特に問題となるのが「医療費適正化計画」である。2006年成立の医療制度改革関連法のうち、高齢者の医療の確保に関する法律には、都道府県単位の医療費適正化推進システム構築が盛り込まれた。その中心が医療費適正化計画である。国の言うところの医療費適正化、すなわち医療費削減は、長きにわたる従来政府の主要命題だった。国の言う、医療費適正化計画と調和のとれた医療計画とは、「医療提供体制の医療費抑制に資する改変」につながり、介護保険事業支援計画との調和とは「できる限り医療保険給付を抑制し介護給付に付け替える」ことにつながる。

 そうした国の意図は明白であるにもかかわらず、それに対し無批判なまま、調査研究の大前提に据えていること自体が問題である。

 研究会が、府民の健康確保に必要な医療サービスを将来にわたり安定的に供給できる制度の構築を目指すのであれば、国の進めてきた医療費抑制策に対する批判的見地を基本姿勢として示してこそ、期待もできよう。

 しかし現状では、研究会が「府は医療費適正化を進めたくても、権限範囲が狭いからそれができない」と主張しているかのように受け取られても仕方がない。

2.「第3章 調査研究項目」について

 具体的分析項目について、府内の疾病構造や医療資源の状況、市町村国保の状況を把握し、今後の府の施策に活かすという視点については、前向きに評価できる。

 しかし、「レセプトデータの活用」の必要性がわからない。

 第1章で「現在では、一定程度の行政統計データはあるものの、医療提供の状況や費用が把握できるレセプトデータ」が使用できないことを問題視するような表記がある。しかし、レセプトデータは「医療提供」の状況を正確に把握できるものではない。これは、研究会でも検討段階から指摘されており、報告書も第5章他で「分析には限界」があることを認めている。限界のあるデータをなぜ活用せねばならないのか、納得できる説明はない。

 また、レセプトデータを調査研究に用いることには、倫理的疑問がある。

 確かに、特定健康診査の結果データとの突合等、レセプトデータを医療費適正化施策に活用する動きは強められてきた。

 しかし、現場感覚では、レセプトデータは、厳然と患者さんの個人情報である。医療機関では「個人情報保護について」の院内掲示を行っている。そこには、「あなたのレセプトデータを京都府や国が医療資源や財政分析のために活用する」ことは宣言されていない。私たちは、患者さんから万一、この件を問われた時に何と説明したら良いのか。

 この点はあえて厳しく指摘しておきたい。

3.「第4章 データによる分析結果等 第1節」について

 しかしながら、中間報告の示す分析結果には、真摯に府内の医療提供体制の実態を把握し、課題を抽出しようとの努力が伺える。

 特に、疾患別に分析した「医療資源」の課題抽出では、「患者の移動状況」「実際の配置」等の指標から、医療機関へのアクセス困難地域の存在を指摘し、「医療提供体制の整備に関しては、市町村として対応できることには限界があり、やはり広域行政を担う都道府県が責任を持って取り組んでいく必要がある」と述べる等、大切な指摘もある。

 ただ、一方でがん・脳卒中に関する「まとめ」で「地域連携クリティカルパス」を強調していることについて、クリティカルパス構築以前に、連携拠点も連携相手もない地域が存在することについての論及がないことに不十分さを感じる。

 また、「医療資源と医療費の関係」を分析しているが、その結果が、次章、次々章にどのように活かされたのかよくわからず、違和感がある。

4.「第4章 データによる分析結果等 第2節」について

 第2節では、「市町村国保は他の保険者に属さないものすべてが加入する国民皆保険制度の『最後の砦』として、府民にとって重要なセーフティネット」と述べられている。この指摘は重要であり、国民健康保険制度をはじめ、わが国の医療保障制度の現状と未来を考えるにあたって、基本的に据えるべき認識であろう。

 その「最後の砦」が、高齢化の進展や就業構造の変化などにより、総じて被保険者の所得が低く、給付額が高い傾向にあること、保険料の収納率の低下から被保険者にとって厳しい状況が見受けられること、市町村の一般会計からの繰り入れの増大など、制度維持が限界に達していることは、そのとおりであろう。そして、中間報告にあるとおり「1人当たり医療費が増加」し、「所得水準の改善は見込まれない」実状を抜本的に改善する必要があることも確かである。

 しかし一方、中間報告は保険料の格差を重大視しているが、1)それをなぜ問題と考えるか、2)格差のある原因は何か、についての見解も分析もほとんどない。そのため、第6章において、「保険料水準をできるだけ平準化していく」との見直し方向が正当なのかさえ、報告書の範囲では全く判断できない。

 保険料の「公平」を検討するならば、負担能力に応じた応能保険料の実現こそが提言されるべきである。

 所得の高い者と低い者の保険料額の「平準化」は「公平」とは言えない。

 保険料問題の主要な論点は、保険者(市町村)間の保険料格差ではなく、「負担能力に応じた保険料」であるかどうかにある。

 中間報告でも語られているとおり、収納率の低下は一律に被保険者のモラル低下を示すものではなく、支払えないほど高くなった保険料に問題がある。

 もともと、高くなりすぎた保険料、膨らみ続ける一般会計からの補填という事態をもたらしたのは、この間一貫して進められてきた、国の財政責任の後退や、構造改革による三位一体改革である。地方自治体の代表者も加わった研究会報告でなぜ、そのことが指摘されないのか疑問である。

5.「第5章 都道府県の保健医療政策についての検討」について

 (1)あんしん医療制度のあるべき姿の項で、調査によって明らかにした医療提供体制の課題等の解決に向けて、「国からの権限移譲による政策手段の強化等について検討すべき」と述べている。医療計画を策定し、医師・医療機関不足問題をはじめとした地域医療提供体制をめぐる問題の解決へ、京都府のリーダーシップを求めることは大切である。中間報告には、医師不足地域への重点的な配分に向け、大学における地域枠の拡大等によってへき地医療を支えるローテーション体制の強化をはかるという提案など、積極的に評価すべき面もある。

 ただし、ここでいう「権限」には、中間報告の公表される直前のあんしん医療制度研究会で事務局である京都府の示した原案では、「診療報酬決定権限」が含まれていた。正式な中間報告からは文言自体が削除され、「地方の医療機関の経営を支えるような水準」の診療報酬という、全然違う意味の文言に置き換えられている。都道府県が診療報酬の決定権限(の1部)を移譲されることは、全国いつでも・どこでも・誰でも、必要な医療が必要なだけ受けることのできる、ユニバーサルサービスとしての国民皆保険制度の根底を否定するものである。

 その点から、中間報告からその趣旨につながる文言を排した、座長をはじめとした研究会委員の良識に敬意を表したい。

 加えて、(5)レセプトデータを都道府県で集約する仕組みの項で、今後システム化するよう求めている(と、受け取ることのできる)文言があるが、これは、4で前述した理由から、賛成できない。

6.「第6章 都道府県の保健医療政策についての検討」について

 京都府が1月27日に全国知事会で示したとおり、「都道府県単位の国保一元化」が提起されている。もちろん、府の提案に具体性のある保険者案、制度案が示されている。

 前提に国のナショナルミニマム保障が必要と述べていることは評価したい。

 その上で、2つの大きな疑問を呈しておく。

 1つに、都道府県単位の国保一元化という結論が唐突に感じる点である。第1章から述べられてきた調査研究結果と、第5章における都道府県の保健医療政策への主体的な関与についての関連性はわかる。しかし、それと国保の一元化の関連性が見出せない。文中、「都道府県の保健医療政策について相乗効果をあげるため」という表現があるが、これもその意味を十分に語っていないのではないか。

 2つに、研究会は都道府県単位の一元化という形態を、恒久的なものとして考えているのか、それとも、ナショナルミニマム保障を国自身が行う制度(全国市長会の要求する全国一本の医療保険等)へのステップと考えているのか不明である。後者であるとすれば、少なくとも、国制度への移行の行程も含めて提起されなければ、「あんしん医療制度」の提案とは言えない。

7.最後に

 以上、触れなかった部分でも、評価できる点、まだ批判せねばならない点はあるが、概ね、研究会の委員各位にお伝えせねばならないことは述べた。

 今回の中間報告や山田啓二知事ご自身も、インタビュー記事で述べられているとおり、医療保障は国の責任で行われる仕事である。この原則に立ち、私どもは今後とも研究会の論議、そして、京都府の政策提言に注目し続けたい。

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