子どものいる世帯への資格証発行について調査

子どものいる世帯への資格証発行について調査

受療権保障するよう自治体へ要望も

 国民健康保険料の未払いにより、一般世帯と同じ保険証を交付されず、資格証明書(以下、資格証)が発行されている世帯に多数の子どもたちが存在することが明らかになった(既報・本紙2664号)。この問題は国政でも大きな課題となり、国会では民主、社民、国民新の野党3党が、18歳未満の子どもを一律救済する国民健康保険法改正案(11月27日)を共同で衆院に提出する状況に及ぶ。協会は、いち早く、子どものいる世帯に対する資格証交付が府内で最も多数であった京都市に対し要望書を提出(11月10日・本紙2665号既報)し、続いて14日には、府内で唯一資格証・短期保険証(以下、短期証)交付を行っていない(保険料「滞納者」が存在しない)伊根町を除く、すべての市町村へ要望書を送付した。

 要望書は、中学生未満の子どもがいる世帯に対して資格証を交付している、京都市、福知山市、舞鶴市、綾部市、宇治市、京丹波町の6自治体に対し、「資格証発行世帯に属する子どもに限定した個別の保険証交付ではなく、その所属世帯に対して交付すること。また、短期保険証ではなく、一般世帯と同じ保険証を発行すること」を求めた。

 子どものいる世帯への資格証交付がなされていない、もしくは、資格証交付自体がなされていない、亀岡市・城陽市・宮津市・向日市・長岡京市・大山崎町・久御山町・八幡市・京田辺市・井手町・宇治田原町・笠置町・和束町・精華町・南山城村・与謝野町・京丹後市・南丹市・木津川市の19自治体に対しては、「保険料『滞納世帯』であっても、世帯内に子どもがいる場合は、短期保険証ではなく、一般世帯と同じ保険証を発行すること」を要望した。

 この問題をめぐっては、「親の滞納について子どもに責任はない」という論調がある。それ自体は当然だろう。しかし、裏を返せば「でも、親あるいは世帯主の滞納は悪い」と単純な見解に与する恐れがある論調でもある。また、子どもだけに一般世帯と同じ保険証を交付する措置は、子どもの受療権保障の観点では大きな前進だが十分ではない。子どもの健康は家族の健康状態と密接にかかわり、子どもの権利を守る観点から考えれば、世帯全員へ保険証交付が行われるべきである。また、国民健康保険は「世帯単位」の加入であり、特定世帯員と他世帯員についての条件に差が生じることにルール上の疑問がある。その点から、子どものいる世帯に対しては無条件に一般世帯と同様の保険証が交付されるべきである。また交付する保険証は「短期保険証」ではなく、一般世帯と同様の保険証であることが必要である。子どもの「無保険」「受療権侵害」につながるいかなる悪条件も取り除かれるべき。こうした観点からの要望項目である。

 同時に、25自治体すべてに要望したのは「故意に保険料を支払わない者などいわゆる『悪質滞納者』への対応を行うことが必要と判断されるならば、外部委員も含めた『資格証明書交付審査会』等を設置し、資格証明書交付の判断を厳格化すること」である。
自治体が「給付と負担の公平」や「貧しくてもちゃんと支払っている人に示しがつかない」等、従来からの論拠をもって資格証交付の必要性があると考えるならば、最低限の条件として、交付対象者本人も含め、住民・被保険者自身全員が納得できる方法で、然るべき手続きを経た上で交付に踏み切る手続きが必要との考え方から、この項目を要望した。

 要望書提出と共に、今回、子どものいる世帯への資格証交付についての留意点を示した厚生労働省通知を受け、各市町村が検討している対策についてのアンケートを実施した。このアンケートも、上記の子どものいる世帯に資格証を交付している自治体と、それ以外の自治体に分類して質問項目を変えた。

 12月8日現在、回答があった自治体は伊根町を除く25自治体中、23自治体(回答率92%)。残る自治体へも回答のお願いをしているが、問題の性質上、現時点で明らかになった傾向について、中間報告として簡潔に報告しておきたい。

子どものいる世帯に資格証明書を交付している自治体に対するアンケート(中間集計)

対象 6自治体(京都市、福知山市、舞鶴市、綾部市、宇治市、京丹波町)
回答 6自治体(京都市、福知山市、舞鶴市、綾部市、宇治市、京丹波町)

 「子どものいる滞納世帯に対する資格証交付について、現在同証が交付されている世帯に対する対応も含めた今後の対応」について問うたところ、宇治市が「今後も資格証明書を発行する」、京都市が「子ども本人に限定し、一般世帯と同様の保険証を交付する」(12月から)、京丹波町が「世帯に対し、短期被保険者証を交付する」(随時・期間6カ月〜1年)、綾部市は「子ども本人に限定し、短期被保険者証を交付する」(1月から・期間6カ月)と回答した。

 福知山市・舞鶴市は「その他」を選択し、コメント欄に「実態把握も含めた現地調査等を行い、滞納世帯との接触の機会を図る、窓口での納付相談ののち、世帯に対し、短期被保険者証を交付する」(福知山市)、「対応を検討中」(舞鶴市)とそれぞれ回答した。また、宇治市は同時に「その他」も選択し、「厚生労働省通知による」とコメントした。

子どものいる世帯に資格証明書を交付していない
自治体に対するアンケート(中間集計)

対象 19自治体(宮津市、亀岡市、城陽市、向日市、長岡京市、八幡市、京田辺市、京丹後市、南丹市、木津川市、大山崎町、久御山町、井手町、宇治田原町、笠置町、和束町、精華町、南山城村、与謝野町)
回答 17自治体(亀岡市、城陽市、向日市、長岡京市、八幡市、京田辺市、京丹後市、南丹市、木津川市、大山崎町、久御山町、宇治田原町、笠置町、和束町、精華町、南山城村、与謝野町)

 協会は資格証交付対象世帯であっても短期保険証を子ども本人にのみ交付するのではなく、一般世帯と同様の保険証を発行するよう要望するが、今後の短期証交付の対応についての方針を問うたところ、15自治体が「世帯に対し、今後も短期保険証を交付する」と回答した。

 「その他」を選択したのは南丹市と大山崎町。「将来にわたっての方針を拘束することはできませんが、短期証の被保険者の発行については、滞納被保険者との納付や相談について、接触を高めるためにも、短期の被保険者証の活用を続けたいと思います」(大山崎町)、「短期証の発行は、滞納者との接触をはかるための一手段と考えている。国保税の納税義務者はあくまでも世帯主であり、納付相談等においては、世帯主との接触が図れれば、事足りることから、世帯主のみを短期証としてその世帯に属する子どもついては、一般世帯と同様の保険証を発行しても差し支えないと考える」(南丹市)と、それぞれコメントした。

5自治体に交付審査会

 また、25自治体すべてに対する共通質問項目である「資格証明書交付該当者選定審査会」については、「ある」と回答したのは、5自治体(向日市、与謝野町、福知山市、宇治市、舞鶴市)であり、いずれも、「庁内のメンバーで構成している」とした。「ない」と回答した他の18自治体のうち、笠置町・和束町の2自治体が、今後設置を検討する方向の回答であり、他の自治体は「検討しない」もしくは「検討中」であった。長岡京市はいずれも選択がなかったが、「審査会のような組織について、本市の実情を踏まえて、今後検討する必要性を認識している。庁外メンバーも加えるかは、検討する上での課題と考えている」とコメントした。

 「検討しない」と回答した自治体は、その理由として概ね、現状資格証交付なされておらず、短期証による納付相談を進めることで対応するとの趣旨でコメントした。

 協会は、アンケート結果について今後、全対象自治体に回答を求め、その上であらためて最終報告したい。

◇  ◇

 今回の集計でも明らかになったように、子どものいる世帯が資格証交付世帯となった場合にも、「子ども本人に限定した短期証交付」「子ども本人に限定した一般保険証」「世帯全体に対する短期保険証交付」と、対応が分かれている。協会は、子どもの健康を守るため、世帯員全員に一般世帯と同様の保険証交付を行うべきと考えており、子どもに限定した証交付だけでは不十分と考える。冒頭に述べた野党3党提出の救済法案が成立すると、資格証交付対象世帯であっても、子どもには保険証を交付することになる。これ自体は前進である一方、世帯全員に資格証交付をしていない自治体の独自施策を縛ることになってはならない。

 アンケートの契機となった「子どもの無保険」問題は、資格証明書交付が受療権を侵害すること、即ち一般世帯と同様の保険証が交付されなければ、受療権が脅かされるケースがあることを、国が公式に認めたものだ。

 資格証交付が、受療権・生存権保障と対立する制度であることが明らかになった今、後期高齢者医療制度でも普通徴収者の「滞納」問題が取り上げられている。京都協会は現在、各市町村に対し、後期高齢者医療の普通徴収対象者の保険料収納についての調査を実施中であり、現在「滞納」状態にある被保険者が来年7月以降、資格証交付対象者になることに警鐘を鳴らしている。子どもの受療権は守らなければならないが、後期高齢者の受療権は守らなくても良いとの論理は成り立たないし、成り立たせるような土壌はつくってはならない。したがって、「親の滞納について子どもに責任はない」との論調は、踏み込みが浅い。

 「保険料の支払い」と「医療の給付」がリンクすること自体が、社会保障としての医療保障制度の在り方として、重大な欠陥であり、正されるべきものだと言える。

 子どもの資格証明書問題を契機に、資格証明書交付制度そのものを根本的に問い直す国民世論を喚起していきたい。

【京都保険医新聞第2669号_2008年12月15日_3面】

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