医療安全対策の常識と工夫(46)  PDF

医療安全対策の常識と工夫(46)

医療安全対策の実践(1)「インシデント・レポート」

 医療安全を確保するために「ヒヤリハット報告」などと称した書式を、院内に用意することは、今や常識となりました。これは一般に「インシデント・レポート」と呼ばれるもので、全従業員対象に些細なことでもよいから、院内で何か問題点を見つけたり、ニアミスを経験した場合に文書報告して、今後の予防に役立てるシステムです。ここでは、その実践に際して注意していただきたいことを、いくつかお話ししてみたいと思います。

 (1)個人への糾弾の材料としない。

 インシデント・レポートというものは、医療従事者にとって、できれば作成したくないものです。それは(重大な)責任を問われるのではないか、きつく叱責されるのではないか、職場で噂にならないか、といった不安が付きまとうからです。本来の目的は予防ということですので、責任者はその意図を十分に従業員に理解させることが必要不可欠です。その前提がなければ例え制度があっても、誰も有効に活用できないことになりかねません。

 (2)患者氏名の明記は避ける。

 患者が特定されると証拠保全の際に、カルテと同様の証拠物件として開示しなければならない可能性が出てきます。更に2005年4月に施行された個人情報保護法にも関係してきます。記載内容は起こった事象に限るべきでしょう。インシデント・レポートは基本的に事故報告書とは性格の違うものなのです。

 (3)カルテ等、診療データとは分けて保存。

 これは何も都合の悪いことを隠すのが目的ではありません。レポートには未確認の事象、あるいは報告者の見当違いも含まれていることが予想されるので、患者さん側に不必要な誤解を与えないことが肝要です。証拠保全を申し立てられた場合も、上記(2)の通り、患者さんの特定ができなければ開示義務はありません。患者さんにデータを開示する際には、誤って一緒に見せないように努めて下さい。

 (4)インシデント・レポートに基づく医療安全研修会の開催。

 折角、報告されたものも活用されなければ意味がありません。また、従事者への制度設立の説得力もなくなります。定期的に検討する場を設けて、全従業員へのフィードバックが必要です。

 次回は、医療法でも開催が義務化されている、医療安全研修についてお話しします。

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