医療安全対策の常識と工夫(37)  PDF

医療安全対策の常識と工夫(37)

トラブル経験は日常診療の肥やしとして

 このシリーズを通して、医事紛争の事後対応のみならず、その周辺についてもお話ししてきました。あらためて言うまでもないことですが、医事紛争に遭遇することは医療従事者にとって、あらゆる面で消耗を伴うものです。それから、二度とその紛争については考えたくもないというのが当事者の本音ではないでしょうか。しかしながら、ここで我々が期待するのは、その経験を無駄にしないということです。トラブルが起こったからこそ学べるものもあると思われます。重要なことは二度と同じトラブルを起こさない、起こさせないといった姿勢です。

 医事紛争の正体は、全ての人間が完全には把握できるものでないのかも知れません。しかし医学・医療と同様に、困難なものに立ち向かい、少しでも良い方向に向かわせるのが、人間としての英知だと思います。今や医事紛争に遭遇することは、必ずしも恥ずかしいものとは限りません。失敗や困難から学ぶことの価値は、計り知れないものと認識して対応していけば、紛争経験も即ち日常診療の糧となり得ることでしょう。日常診療がしっかりしていれば、多くの紛争は回避することが可能だと考えています。つまり医療安全の実践は、純粋に日常診療のレベルアップに繋がるのです。そこから患者さんとのより強い信頼関係も構築できることでしょう。

 京都府保険医協会が紛争対応のみならず、その予防に一層の努力を傾ける目的もまさにそれです。よりよい医療のために、協会は努力と助言を惜しみません。今後とも会員と協力して、国民の更なる信頼を得るように活動していきたいと思います。

 次回は、医療過誤の有無を確認するチェック項目についてお話します。

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