医療安全対策の常識と工夫(31)  PDF

医療安全対策の常識と工夫(31)

医師にありがちな患者対応の失敗例

 患者さんから直談判されると、多くの医師は若干なりとも狼狽えます。後になって我々が話を聞くと、どうやら自分の行った医療行為そのものに自信がないと言うよりは、予想外の悪い結果に驚き、かつ道義的責任を感じられているようです。そこで医師は医療過誤の有無を確認する前に、目の前の患者さんを何とかしてあげたいがためなのでしょうか、「今回は本当に申し訳なかった。保険に入っているので何とかできると思います」と患者さんに発言することもあるようです。医師にしてみれば、「高い保険料を払っているのだから、こんな時こそ何とかするのが保険だ」とお考えになりがちですが、患者さんに如何に損害があろうとも、医療過誤がなければ一般的に言って保険は発動しません。

 何故と思われる方がおられるかも知れませんが、医師賠償責任保険を含めて、損害賠償責任保険とはそのような制度なのです。つまり賠償責任の有無は「結果」からは判断できないということです。そこで今一度、医療には不可抗力や予見不可能性といった要素が多大にあることを再認識して下さい。

 また、患者さんに対しては日常診療において、医療の現実を啓蒙していくことも、不必要なトラブルを防ぐことに繋がるのではないでしょうか。紛争対応の現場では、その是非は別として医療のパターナリズムは崩壊しつつあるように思われることがあります。時には医療が不確実なものであることを患者さんに説明することに、戸惑いや遠慮はいらないと考えるべきでしょう。むしろ、その点を医療機関側も患者さん側も共通認識として、両者ともに自覚と責任を持って医療を行い、受けるといった状況を作り上げることが最良と思われます。

 次回は、医事紛争における加害者について考えてみたいと思います。

ページの先頭へ