医療安全対策の常識と工夫(26)  PDF

医療安全対策の常識と工夫(26)

「理解するけど、納得でけへん!」

 医事紛争で賠償責任が認定されるには、医療行為との因果関係のみでは不十分な場合があります。因果関係に加え、過誤と損害が存在するのが一般的な条件となっています。

 例えると、点滴・注射で本来の薬剤ではなく、他の患者さん用の栄養剤を投与してしまった場合、過誤は確かにありますが、患者さんへの影響は一般的にはほとんどないと言えるでしょう。患者さんにしてみれば、医療機関で誤投薬された事実だけで驚き、憤怒されるのですが、実際には損害が算定し難いのが実情です。

 また、点滴・注射で神経損傷を来した場合に、施行者に特段の不注意がない限り、今度は損害があるにも関わらず、不可抗力として過誤がないということになります。実際に裁判で医療機関側が勝訴した判例もあります。このような事態が発生すると、患者さんに納得してもらうのは極めて困難ではあります。しかし、医療機関側としては、賠償責任ではなく道義的責任に限って言及、もしくは謝罪するに止めなければなりません。

 インテリジェンスに問題のない患者さんならば、誠意を持って説明すれば、その理屈を理解はしていただけるようです。しかし、結論は「先生の言う話は確かにその通りでしょう。でも、何とかするのが筋でしょう?」となるようです。ここで医師は、これ以上どうして良いか分からなくなり、途方に暮れてしまいます。ある意味で医療機関側に賠償責任がないことを理解して、なおかつクレームを言い続ける患者さんほど手に負えないものはありません。弁護士など第三者に委ねるのも一つの方法ですが、許される限り、何度も何度も同じ説明をして、患者さんに納得あるいは諦めて貰うことも考えられます。いわば根比べといったところでしょうか。誠心誠意を尽くし、それでも理解していただけない場合には、遠慮せず京都府保険医協会にご連絡下さい。

 次回は「医師賠償責任保険制度」についてご説明します。

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