医療の不確実性を考える(11)

医療の不確実性を考える(11)

弁護士 莇 立明

乳癌の診断と細胞診 2

 病院としては、乳癌の診断における各種検査、画像診断は補助診断であり、穿刺吸引による細胞診検査こそ乳癌診断における確定診断であるとの理解が通説である。さらにこの患者の場合はシリコンを原発巣とする転移性癌が疑われており、患者も外科手術によるシリコン摘出を希望されたのではなかったか。この療法選択についての病院側の説明にも問題は見られないと思われる。となると、細胞診検査が問題なのであるが、これは第三者検査機関に外注して出た専門診断医の判定であり、これを信頼しないのでは診断は定まらず治療方針も決まらない。今更、誤診であったとなったら何に基づいて癌の有無を確定診断すべきこととなるのか。患者側は術前に生検をすべきであったと主張したが、これは誤解であり、乳房の組織切り出しは外科手術そのものとなる。穿刺吸引細胞診こそ術前の生検とも言い得るのである。

 乳癌の診断とは、結局、補助診断法である各種画像診断の積み重ねと穿刺吸引細胞診で確定するしかないのであり、生体の切り出しが術前に出来ない点に、結果的に誤診の可能性が出てくると言えよう。医師が、外科手術が必要であると判断したら、その選択を患者に勧めるが、時間があればセカンドオピニオンを得ることを勧めるべきであろう。急ぐ場合は、術中迅速診断という方法もあるけれども、それを実施可能な施設は限られる。

 ここでも医療の不確実性は免れないものであることを知るのである。女性の不安の元である乳房の診断がこのような現実であることを知ることも必要であろう。

 別の医療機関の5年前の件であるが、66歳既婚女性で左乳頭の変形に気付き受診、各種画像診断では乳癌の疑いと診断され、吸引細胞診(外注)の病理診断結果はclassVの癌との診断であり、乳房切除を実施したところ結果は良性であった。裁判となり和解で解決した。また、肺癌の事例においても早期肺癌の診断において吸引細胞診の判断がclassVであったのに外科手術後、良性であったことが切除組織の病理診断で判明し訴訟となったことがある。

 ここまで書いて、6月5日付け読売新聞に、患者発案の乳癌一貫サポート医療機関、相談などの総合施設が広島でオープンするとの記事が出た。検診、治療、術後も患者の心身両面に寄り添ってケアするとのこと。今後の動きが注目される。

【京都保険医新聞第2648号_2008年7月21日_3面】

ページの先頭へ