医療の不確実性を考える(10)

医療の不確実性を考える(10)

弁護士 莇 立明

乳癌の診断と細胞診 1

 インターネットを見ると乳腺外来の宣伝記事が花盛りである。

 「乳癌にかかる方が非常に増えている」「日本女性の乳癌の発生率が急激に上昇傾向にあるのをご存知ですか?」「乳房に異常を感じたら、乳房のことで不安がありましたら、ぜひ、気軽に乳腺外来に相談・受診して下さい」などなど。乳癌ではないかとの不安を抱えた女性がいかに多いかを知らされる。しかし、医療の不確実性の問題はこの分野でも様々なトラブルとして現れているように私には思える。

 38歳の既婚女性。両方の乳房にシリコン挿入の豊胸術を行っていた。最近両側の腋かリンパ節が腫れてきたので不安があると訴えて受診された。PET−CTを撮ったところ、乳腺組織内に微小乳癌の可能性がみられた。超音波、乳腺MRI検査でも左リンパ節腫大を認めた。そこで穿刺吸引による細胞診を行うことを患者に勧めたのである。患者は同意されたので、左腋下リンパ節に針穿刺による吸引細胞診を実施した。検査機関における細胞診断医の判定によれば、結果はほぼ転移性腺癌でありclassIVと判定された。classIVは90〜95%癌との診断である。癌の原発巣は既に破れて液が浸出しているシリコンからの発癌の疑いが高いと推定された。

 医師は、治療法として、破れているシリコンパットを摘出し、癌腫瘍の疑いの高い左側乳房の堅い部分の外科的切除術及び両側腋かリンパ節の摘出術を選択することを患者に勧めた。患者はシリコン摘出を希望していたので、この外科手術に同意し、何らの躊躇はなかったのである。ところがである。術後に切除組織の病理診断を行ったところ全て良性であったことが判明した。結局、術前の吸引細胞診の検査機関の病理判定が誤っていたのであった。

 患者側は術前の各検査を総合すれば悪性の疑いもないことが総合的に診断できたのではないか、病院は細胞診結果を軽信して手術を急ぎ過ぎたのではないかと言ってきた。

(次回に続く)

【京都保険医新聞第2647号_2008年7月14日_3面】

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