医界寸評  PDF

医界寸評

 生前、父の書いた原稿の中に、13歳の少年の直腸がんの経験があった。根治手術をしようと開腹すると、がんの転移がひどく、がんの摘出はできずに人工肛門だけをつくって手術を終了した。術後14日目に合併症を併発し、対症療法で点滴等様々な処置を行っていると、少年の父親が治療をやめ、退院させたいと申しでた。「こうなるまでに、先生が、金がかからぬよう気を遣ってくれていたことは痛いほどよくわかります。しかし、この三日間の点滴や、ほかの処置を見ていると、家がつぶれてしまうのではないかと、恐ろしくなるのです」と。治療を続けると経済的に家族の生活ができなくなってしまうことが理由だった。生活保護にならないかなど、様々な手段を考えたがだめだった。この少年は退院して二週間後に八畳一間の自宅で亡くなった。父は少年の父親と一緒に酒を飲んだ。今から45年ほど前のことだ

▼今はどうだろう。国民皆保険制度がはじまり今年で50年になる。高い保険料が払うことができず資格証を発行されたり、保険料は払えても、窓口負担が重く受診できずに病状が悪化してしまうケースもある。誰でもいつでもどこでも保険証をもっていれば医療を受けることができる国民皆保険制度が崩壊してきている。医療を受ける権利、命の平等が奪われつつある。今、真の国民皆保険制度を守っていく運動をしていかなければならない。(治)

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