医界寸評

医界寸評

 下痢・便秘が続き疲れが激しいと思いながらも診療を続けてきたが、ついに動けなくなり検査をしてもらったらガンであった。2カ月の闘病生活を送り、4カ月の休診を余儀なくされた。今も抗がん剤を服用しながら毎日を送っているが、健康が何よりと痛切に感じるとともに、今の自分の立場を根底から見直す良い機会でもあった

 ▼3回の入退院と2回の手術の経験は、患者の心理が如実に実感でき、発病以前はたった1枚の手術希望の紹介状を相手の立場を深く思うことなく、患者さんに手渡すだけで、闘病生活には全く無関心であった自分が恥ずかしい

 ▼初期診断から大学を紹介していただいた先生が忙しいなか入院中の私を見舞いにこられたこと、執刀医が術後私の手を強く握り締め投げかけられた温かい言葉、これらに感動し、健康を取り戻しただけでなく、忘れかけていた患者サイドに立ったプライマリ・ケアを痛いほど教えられた。有難いことである

 ▼病棟から見える緑の山並み、深夜待合室にたたずむ患者の背中、早朝の通勤ラッシュ、深夜勤を終えた看護師の寮へ急ぐ姿を見ては、つい昨日の記憶が戻らないもどかしさに反し、40年前の大学病院の勤務生活が走馬灯のようにかけめぐる。健康な身体に健全な精神が宿ることをいやと言うほど教えられ、残された人生をゆっくり味わいながらもう一度患者さんと共に歩みたいと思う今日このごろである。(康)

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