医師が選んだ医事紛争事例(38)  PDF

医師が選んだ医事紛争事例(38)

誰の責任? 薬剤の副作用で交通事故を誘発

(70歳代前半男性)

〈事故の概要と経過〉

 吃逆で受診。リボトリール(ベンゾジアゼピン系抗てんかん剤)0・5mg、6錠分3を5日分処方した。薬剤はA薬局での院外処方であったが、医師は眠気が起こることを患者に説明していなかった。同日に患者は昼食・夕食後に各々2錠服用した。夜間は異常に深い眠りについた。翌日早朝に2錠服用して車を運転したが、運転中にほとんど意識のない中で電柱に衝突して、肋骨骨折等でB医療機関に入院となった。

 患者側はリボトリールの副作用についての説明が全くなかったので交通事故に遭遇したと、車両の代金を含めた賠償請求を文書で示してきた後に調停を申し立てた。

 医療機関側としては、リボトリールは本来、吃逆に適応はないが、文献上も経験的にも吃逆に効果があるとして処方した。眠気が起こる可能性はあったが、車の運転等を控えることは指導しなかった。また、院外処方をしているが、A薬局でもリボトリールについての情報を患者に全く与えていなかったことが後に判明した。更に医師は交通事故とリボトリールとの因果関係はあるとして全面的に医療過誤を認めた。

 紛争発生から解決まで約2年間要した。

〈問題点〉

 調査開始当初、医師は事実を示さなかったが、実はアドメッセン(アレルギー性疾患治療剤)、エチセダン(ベンゾジアゼピン系精神安定剤)等複数の処方をしていたことが後に判明した。アドメッセン、エチセダンは車の運転等に注意するように患者用の注意書きに記載されており、患者はこの注意書きをA薬局から手渡されていた。したがって、交通事故とリボトリール以外にもアドメッセン、エチセダンの因果関係も否定できないことになった。更に、患者はアドメッセン・エチセダンが眠気を促進することを知っていたのだから、当然、運転開始時の体調を顧みて、車の運転を控えるか否か検討する等の注意義務があったことになる。患者はリボトリールのみに着目しているが、この点は疑問が生じた。医療機関側の責任としては、リボトリールに関する療養指導義務を怠り、その結果、交通事故が誘発されたことも否定できない点と、通常ならば0・5mg〜1mgを1〜3回に分服するように能書に示されているにもかかわらず、過剰投与であったと判断されるだろう。また、リボトリールに限ってはA薬局も患者に情報提供していないので、薬剤師法第25条の2に違反していたことになり、医療機関との共同不法行為に相当すると考えられた。また、車両運行上の運転者の法的責任は重く、以上のことから、責任比率に関しては、患者:医師:薬剤師=5:3:2程度が妥当ではないかと考えられた。しかしながら、患者はB医療機関において、入院当初から運転中に眠気を堪えながら無理をして運転していたと述べていることが確認された。従って、患者の責任は更に重かった可能性もあっただろう。

〈結果〉

 調停において、責任比率までは言及されなかったが、医療機関側・調剤薬局双方が和解金を支払い和解した。なお、和解金額は患者側請求額の70分の1以下であった。

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