全会員対象のアンケート実施  PDF

全会員対象のアンケート実施

事務所移転を機に協会のあり方問う

対象者 京都府保険医協会会員のうち研修医会員を除く2480人
回答者数362(回答率15%) 実施期間 10年7月1日〜8月31日

 協会の事務所移転に先立つ7・8月に、全会員の意見を結集し、これからの協会のあり方について、原点に立ち返り一から考え直していくことを目的に、全会員対象アンケートを実施した。概要は以下の通り。集計結果はメディペーパー京都12月号で掲載する。

開業医の協会への期待
スタッフ確保や労務管理 審査・指導対策 行政との意思疎通

医業の実態編(開業医)

 開業からの年数は31年以上が最も多く29%、次いで11〜15年の16%、5年以下の15%、6〜10年が14%と続き、開業20年までと20年以上がほぼ半々であった。開業時に不安に思ったことについて具体的に尋ねたところ、開業資金や借入金についての心配が最も多く、その他は経営の見通し、集患対策、雇用管理、点数解釈・請求事務などが並んだ。開業時に協会が役立ったことがあったかどうか聞いたところ、「あった」42%、「なかった」53%であった(図1)。具体的には融資、点数解釈・請求事務などが多く並んだ。開業後に協会が役に立ったことがあったかどうかについては、「あった」55%、「なかった」39%であった(図2)。具体的には、点数解釈・請求事務、共済制度、医療安全、融資が多く並んだ。今後の協会への期待については、スタッフ確保や労務管理、医院継承などへの支援、審査・指導対策、行政との意思疎通をはかることなどが並んだ。医師としての夢について聞いたところ、「地域医療への貢献」「患者さんのため」「理想の医療の追求」などが並んだ一方で、夢はないとの回答も一定数あった。

図1 開業時に協会が役に立ったことがあったか

図2 開業後、協会が役に立ったことがあったか

勤務医の実態
「地域との距離が大きい」 プラス改定の効果「なかった」 給与等待遇面の改善望む

 医業の実態編(勤務医)

 これまで勤務した医療機関数は平均で5・8。現在の勤務で満足していることを聞いたところ、「同じ志で地域のために集っている医師や職員とがんばれている」「いろいろな経験ができた」「若年医師が比較的多く活発である」などが寄せられ、不満があることについては、「地域のためにがんばっても報われないこと」「地域との距離が大きい」「長時間勤務で休みが取れない」「給料が安い」などが寄せられた。これからも勤務医として働くかを聞いたところ、「働くつもり」が70%で、「分からない」の18%、「開業を考えている」の4%を大きく上回った(図3)。勤務医救済がテーマとされた今年4月の診療報酬改定の効果については、「あった」が4%に留まり、「なかった」が71%にのぼった(図4)。勤務医のおかれている現状で改善を望むことについては、給与・休日などの待遇面と、それを可能とする診療報酬制度の見直しに意見が集中した。今後協会に整備を求める事業については、医師・看護師の紹介、医療機関のネットワークづくりのサポートなどが寄せられた。医師としての夢については、「医療・介護が保障された地域社会の実現」「生涯現役」「専門知識・技能の向上」などが寄せられた。

図3 これからも勤務医として働くか

図4 2010年改定は勤務医救済の効果があったか

患者実態について
重症化してからの受診増えた 支払いに困る患者さん増えた 診療縮小の相談や治療中断も

医師からみた患者実態編

 最近の患者さんの受診時の健康状態について尋ねたところ、「重症化してからの受診が増えた」が14%、「病状初期での受診が増えた」が7%、「以前と変わらない」が55%であった(図5)。「重症化」の割合が「病状初期」の割合を上回って報告され、気になった事例としては「ターミナルになるまで受診せず(経済的に困っていて)受診後1カ月で死亡」「30代の独身女性で高血圧治療中。定期的に受診せず、理由を尋ねたところ『収入が不安定で払えない月がある』」「生保打ち切りのため、インスリンが打てなくなった」等の受診抑制・治療中断の深刻な事例が報告された。

図5 患者さんの健康状態

 最近の患者さんの保険加入状況や窓口負担の負担感について尋ねたところ、「窓口負担について相談されることが増えた」が17%、「資格証や短期証の患者さんが増えた」が10%、「全く保険に入っていない患者さんが増えた」「窓口負担の支払いが滞る患者さんが増えた」がそれぞれ5%、「以前と変わらない」が49%であった(図6)。ここでも、確実に公的医療保険の空洞化が進んでいる実態が報告され、気になった事例としては「無保険で症状を我慢し、やっと国保に加入してきた時には、胃がんの末期であった」「無保険にて喘息の治療が継続できない」「クビになった人への対応に苦慮する。半額・ゼロ負担にしている人が増えた」等の、経済的困窮が医療の切れ目となっている実態が報告されている。

図6 患者さんの保険加入状況や窓口負担の負担感について

 最近の患者さんの受診動向について尋ねたところ、「検査の拒否や薬剤の削減など診療内容の縮小に関する相談が増えた」が24%、「治療中断が増えてきた」が22%、「資格証や短期証に切り替わった患者さんが受診しなくなった」が7%、「以前と変わらない」が38%で、検査の拒否や治療中断があるとの回答が多く寄せられた(図7)。気になった事例としては、「現役世代で、本当に継続した治療の必要な人が3割負担の上に、子ども等にもお金がかかり、治療を中断する」「特に糖尿病、高血圧、高脂血症に中断が多い」「持参金を示してこの範囲内での治療を希望されることが時々ある」等の受診抑制や治療中断が、働き盛りを含めて広い世代に広がっていることが伺われる事例が寄せられている。

図7 患者さんの受診行動

 介護が必要な状態になっているにも関わらず、介護保険制度やそのサービス内容の不備から、日常生活に支障を来してきている患者さんを受け持った経験があるかどうか聞いたところ、「ある」22%、「ない」31%、「分からない」24%であった(図8)。具体的な事例としては、「一人暮らしのADL低下者で特養になかなか入れない。お金の負担があり、訪問看護が頼めない」「複合的な疾病にかかっていたり、後遺症があったり、家族介護人の限界など八方塞がりで、何から手をつけたら良いか分からぬくらい」「高齢世帯、2人とも認知症。高齢者のインスリン自己注射の諸問題。一人暮らし高齢者の火の不始末問題」「痴呆症を合併した老人を介護している家族からの相談が増えて、老人を収容するべく家族からの訴えが増えて困っている」等の介護保険の問題に留まらない、高齢者の生活問題全般にわたる深刻な実態が報告された。

図8 要介護状態だが、介護保険等が機能せず日常生活に支障を来している例

協会活動への意見
医師が誇りもてる環境に 会員相互の繋がり支援を 府医と共同しつつ協会の独自性を

今後の協会活動への意見編

 府医師会館の移転に伴い協会事務局も移転するにあたって、心機一転新たに取り組むべき事業についてアドバイスを聞いたところ、「国民皆保険制度の形骸化を許さない活動を」「今後は『地域医療』だけを見ていられない。『看取り』や『終の住処』の整備が必要」「医師が『医師になって良かった』と思えるような医療界を」等の、患者側・提供側含めて医療・介護制度の改善を求める取り組みを求める意見。「従業員教育講座(医療制度、社会保障制度)で基礎的な知識を習得し、地域医療を守る働き手を育成する」「医学生、研修医向けに『保険医講座』」「医療情報の改悪の情報を分かりやすく伝えて」等の学習・情報提供の充実を求める意見。「医師同士のネットワークが作りやすい環境に寄与すること」「在宅ネットワーク作り」等の会員相互の繋がりを支援することを求める意見が寄せられた。

 現在協会が行っている、政治や政党への働きかけや行政への働きかけ、医療政策、社会保障政策から、環境・公害対策、市民が安心して暮らせる平和な社会の創造、原子力利用状況などに対する監視と意見発信などの活動で、今後さらに社会的役割を果たすべきと思われることについて聞いた。それに対しては「現在の路線おおむね賛成。それぞれの路線が抱える問題への取り組み方を検討し更に強化してほしい」「原子力利用状況などに関しては無知な部分が多いので、もっと情報発信してほしい。また、一般社会への啓発活動も行ってほしい」等の現状をより進めるべきとの意見。「保険医協会ですから、医療に関することを中心に、開業医・勤務医が安心して診療できる環境を」「医療政策・社会保障政策に対して国民の運動として盛り上げて良い方向へ変えていく」等の医療・社会保障制度改善への取り組みを強めるべき、との意見が寄せられた。

 今後の府医師会との関係について、取るべき協会の対応について聞いたところ、「府医にはない良さを発揮して」「協会は協会の理念、ビジョンを貫き、医師会とは十分話し合いを」「府医と協会との対立性はこれまで永年にわたり指摘されてきたが、その対立は決して不毛ではなく対立あればこそ京都府の医療の特性を生んで来たとも言える。両者真摯に対応して行けば良い」等の、協会の良さを生かしつつ活動すべきとの意見。一方では、「医師会との共同作業(特に政治面)」「共に同じ、そして対等の仲間。お互いに小異を捨てて、大同につこう。目標は同じだ。但し、協会としての伝統の矜持は保つべきだ」「目指している最終的な目標が共に同じであるならば、方法が違っても協力できるところは協力して、大きな力にしてほしい」等の、協力できることは積極的に共同すべきとの意見が寄せられた。

 最後の自由意見では、「協会設立の原点に立ち帰り、保険医療を担う保険医からの運動を提起すること。会員の要望を細かく聞き取り、医業・生活に密着した事業展開を望む」「正直なところ、医師会と協会の両方に加入しているのは、協会には毎日の診療に具体的に役立つ事業がいろいろあるから。一人ひとりのニーズに応えている今の姿勢を大切に」等の、協会が寄って立つべきところである会員第一の姿勢についてもあらためてご意見をいただいた。

 協会はこれまでも、会員のご意見とニーズを基にして各種事業を展開してきたが、今回いただいたご意見を生かして、なお一層医師団体としての社会的使命を自覚しつつ、医療・社会保障制度の充実に向けた取り組みを進めるとともに、日常診療活動の支援と医業経営の安定に資するよう会員サービスの向上に努力していきたい。

ページの先頭へ