代議員アンケート(51)社会保障カード・社会保障個人会計について

代議員アンケート(51)社会保障カード・社会保障個人会計について

調査期間 5月25日〜6月5日

対象者=95人 回答数=32(回答率34%)

 レセプトのオンライン請求が義務化され、現在は医療機関の規模や設備状況等に応じた経過(移行)措置期間となっている。義務化撤回を求める運動が広がるにつれ、マスコミや国民の間で?義務化?に疑問を呈す人が増えるだけでなく、与野党の国会議員からも問題視する声が相次いでいる。それでも政府・厚生労働省は?義務化?を撤回しようとしない。?義務化?しなければ実現しない制度の導入を目論んでいるからに他ならない。それが?社会保障カード・社会保障個人会計?なのである。協会は、レセプトのオンライン請求義務化を前提とした社会保障カード等の導入に対し、会員のご意見を伺うアンケートを実施した。結果の概要及び協会が考える問題点等は以下の通り。

社会保障カードとは?

 厚生労働省が導入を検討中の社会保障カードは、「年金手帳、健康保険証、介護保険証としての役割を果たし、年金記録等を簡便に確認できるもの」とされている。社会保障カードのICチップに本人識別情報が収録され、国民はパソコン、携帯電話、地上デジタルテレビ放送対応テレビ等の情報端末から認証を受けた後、保険者が保有するレセプト情報、特定健診結果等に関する個人記録に、ポータルサイト(社会保障ポータル、電子私書箱)を通じ、中継データベースを経由してパソコン等でアクセスできるようになる、と言われている。また、医療機関等の情報端末による被保険者資格の確認の利用も検討されている。

 社会保障カードについて、国は国民に対し、?オンラインで自分のレセプト情報を閲覧できる、?医療機関でオンラインにより資格確認することで被保険者証として使える―2点をメリットとして謳っている。
しかし、この構想には、国民にとって大きな問題が内包されている。今回のアンケートは、保険医協会が危惧する点を中心に8項目伺った。

1、社会保障カード構想

 前述の社会保障カード構想について、「慎重にすべき」が15人(48%)で最多、次に「反対」が11人(34%)と多く、「推進すべき」「分からない」はそれぞれ3人(9%)に止まった(図1)


2、政府のIT戦略

 政府・財界により、全国民が情報端末を使って、電子行政サービス(ワンストップサービス)を活用したり、電子私書箱を持ったり、社会保障カードを持って社会保障サービスを管理するといった、国家的IT戦略が推進されていることについて尋ねた。
「慎重にすべき」が16人(50%)で最多、次に「反対」が12人(38%)と多く、「推進すべき」「分からない」はそれぞれ2人(6%)であった(図2)

社会保障番号から社会保障個人会計へ

 社会保障カードに収録する本人識別情報は、現段階では、「公開鍵暗号の仕組みを用いた認証」を用いるとともに、各個人に「保健医療番号」を付番してカード券面に記載、カードと保健医療番号、医療・介護制度の被保険者番号との紐付けを検討。全国民を識別できる情報を付与し、実態は社会保障番号として取り扱おうとしている。社会保障カードの導入は、社会保障ポータルの設置とともに、社会保障番号の導入、ひいては社会保障個人会計の導入のためのインフラ整備とも考えられる。

 06年7月の「骨太方針06」では、「社会保障番号の導入など社会保障給付の重複調整という視点からの改革などについても検討を行う。また、社会保障個人会計について、個々人に対する給付と負担についての情報提供を通じ、(中略)検討を行う」と記載されている。

 社会保障個人会計は、「社会保障給付の更なる重点化・効率化を推進する」=?社会保障給付の縮小?のための方策であり、社会保障カードを使った「情報提供を通じ」、国民に浸透を図ろうとしている。

3、?真の目的?を隠したIT化の推進

 これまでの経緯からは、政府・財界は、社会保障個人会計の目的を隠蔽したまま、利便性だけを広報して、各制度のIT化を打ち出していると言える。この現実について尋ねた(複数回答)。

 「国民に対して真の目的を明らかにすべき」が16人(36%)、「IT化自体は否定しないが、社会保障制度のITを使った管理は慎重にすべき」が15人(33%)と多く、「各政党は次期衆院選挙の争点として社会保障カードを取り上げるべき」が8人(19%)と続いたが、「推進策には問題はない」との意見は皆無だった。また「分からない」が3人(7%)(図3)。「その他」として、「個人情報が散逸しないかが最大の問題点」「この問題自体、国民は理解していない。社会問題とすべき」との意見が寄せられた。

4、社会保障の負担と給付を個人単位で管理(社会保障個人会計)

 社会保障個人会計は、「社会保障に対する個人単位の負担と給付の管理」を目的に打ち出されていることについては、「反対」が18人(56%)と多く、「賛成」は4人(13%)であった。「分からない」も10人(31%)に上った(図4)

5、社会保障カード等の一体的運用による国民総背番号制の導入

 内閣・IT戦略本部は「IT政策ロードマップ」(08年6月11日)の中で「住民基本台帳カードの普及にあたっては、社会保障カードの議論と一体的に検討を進める」としている。

 「社会保障・住基一体カード」の検討は、住基カードの携帯を全国民に義務づけ、これを身分証明書=「国民識別カード」として、「国民総背番号制」を導入する可能性に直接的に結びつく。

 社会保障カード・住基カード、社会保障番号・納税者番号が一体的に運用されて、国民総背番号制度とも言える新しい仕組みが作られる可能性が高まっていることについては、「反対」が15人(47%)と半数近くに上り、「賛成」は6人(19%)であった。また「分からない」が9人(28%)(図5)。「その他」として、「一体でなければ一部容認できる」「ソーシャルセキュリティナンバーとしての国民総背番号制度にはある程度賛成」との意見が寄せられた。

レセプト・特定健診等データと「国民総背番号制」のリンク

 高齢者医療確保法第16条では「厚生労働大臣は、全国医療費適正化計画及び都道府県医療費適正化計画の作成等に資するため、医療保険者から提出された情報(レセプトデータと特定健診等データ)の調査・分析を行う」としている。その際、患者等の氏名等個人情報は匿名化されるが、国により全国民のレセプトデータと特定健診等データの収集が行われた上に、社会保障・住基一体カードとリンクさせることが可能なシステムを作り上げることになる。もしも、匿名化が破られ、個人情報とレセプトデータ、特定健診等データが大量に奪われた場合の被害は計りしれない。

 また、個人情報保護法を改正さえすれば、全国民のレセプトデータ、特定健診等データと、住基ネット情報(社会保障・住基一体カード導入の後は「国民総背番号」)のリンクが可能となってしまう。

6、レセプト情報の自由な閲覧

 レセプトのオンライン請求義務化により保険者に集積されたレセプト情報を、患者が情報端末を使って閲覧やダウンロードできる構想について尋ねた。

 「そこで取り出した情報だけを基に患者がいろいろな判断をすることは危険であり、問題がある」が29人(91%)と大半を占め、「導入に賛成」は1人(3%)に止まった。「分からない」は2人(6%)であった(図6)

7、オンライン請求が前提の資格確認システム

 また、義務化によってすべての医療機関に引かれた回線を用いて、被保険者証を兼ねた社会保障カードで患者の被保険者資格の有無を確認できることについても尋ねた。

 「必要とは思うが、オンライン請求義務化が前提になっていることは納得できない」が18人(56%)と最多で、「そのような制度は不要(被保険者証を目視で確認する従来の制度で十分)」が13人(41%)と続いた。「導入に賛成」は1人(3%)であった(図7)

8、国による国民の診療・健康情報の一元管理

 レセプト情報、特定健診・特定保健指導情報の電子化によって、国民の診療情報・健康情報が国に一元管理される可能性については、「反対」が22人(68%)で7割を占める一方、「賛成」は5人(16%)に止まった。「分からない」も5人(16%)であった(図8)

レセプト情報の管理・運用面で危惧―?義務化?前提の制度導入に異論も

 自由意見では、「レセプトオンラインそのものに反対。理由は情報漏れが怖い。FDやCDを直接手渡すなら許せる」「保険者に集積されたレセプト情報がさまざまなことに利用される可能性があり、非常に危険」「国家統制のための国家の情報一元化に反対」「基本的にはすべて反対ではない。ただ(欧米のように)きちっと管理・運用されればいいのだが…日本ではそれが不安」といった情報集約・管理面で危惧する意見が多く寄せられた。また、「保険証を提示され、確認作業をしても、すでに資格喪失の時がある。被保険者資格の有無を確認できるのはありがたいが、オンライン請求義務化等、それ以上にデメリットのある点は許容しがたい」など、オンライン請求?義務化?を前提とした制度導入に反対の声が上がっている。

国民への問題提起と十分な議論を

 今回のアンケート結果では、社会保障個人会計や、その先にある国民総背番号制の導入に反対する回答が多く寄せられた。

 保険医協会も社会保障番号制度・社会保障カードの導入には強い懸念を抱くとともに、政府・与党の進める社会保障制度におけるITの活用も、批判的に捉えている。

 社会保障カードの導入には国民の十分な議論が必要であり、議論の末、国民の合意が得られたとしても、それが社会保障費の抑制につながらないものであることを担保すべきである。

 レセプトのオンライン請求義務化と地続きになっているこの問題は、あまり認知されていない。現在、医療担当者が中心となってオンライン請求義務化の撤回運動を進めているが、今後は、義務化が単に請求方法の変更を押し付けるものだから反対しているのではなく、社会保障の「構造改革の鍵」と認識して問題視していることを、国民に訴えていく必要があろう。

 

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