介護保険改定案/高齢者の生活と療養のあり方を決定づける重大法案  PDF

介護保険改定案/高齢者の生活と療養のあり方を決定づける重大法案

 介護保険改定法案は4月5日に上程され、5月10日に衆議院付託、31日には衆院を通過した。野党の自民・公明は法案に盛り込まれた社会医療法人による特別養護老人ホーム経営参入の削除を条件に賛成の立場を表明しており、民主党側もこれを了承する方針であることから、今国会での早期成立は避け難いのが現状だ。

 今回の改定法案は社会保障審議会・介護保険部会の「介護保険制度見直しに関する意見」を踏まえたものだが、部会で協議事項となった「ケアプラン有料化」や「利用料引き上げ」等は盛り込まれていない。さらに震災とその復興をめぐる課題の影に隠れ、ほとんど国民に改定内容が知らされないままの「マイナーな改正」とする向きもある。しかし、改定法案に盛り込まれた「地域包括ケアシステム構築」が孕む、地域での医療・介護の提供体制へ与える影響は甚大であり、今後、わが国における高齢者の生活と療養のあり方に関し、その方向性を決定づける重要な法案である。

公的責任によるケア保障実現に向け介護保障のあり方自体を見直せ

 協会の要望書では、次の点を求めた。

 1介護保険改定法案の十分な審議を、2介護保険制度のあり方自体の再検討を、3施設でも在宅でも、高齢でも障害があっても、その人らしく暮らせる地域包括ケアシステムの実現を―。

 1と2に関しては談話内容を簡略化したものだが、3については提案された新サービスの評価も含め、各論に踏み込んだ。具体的には、地域包括ケアシステムの基盤整備にあたり、(1)「自助」「互助」「共助」「公助」を直線的・並列的に扱わず、国・自治体が第一義的な医療・福祉の保障主体(責任団体)であることを明示すること、(2)地方自治体が中心になり、そのコーディネートの力によって地域の医療者・介護事業者・住民福祉関係者の連携を構築すること、(3)保健所や福祉事務所が本来持っていた相談機能や問題解決機能を再生させ、さらに強化していくこと、(4)地域包括支援センターへの人的・財政的保障の強化をはかること、(5)24時間・365日のケア保障が可能な入所施設を増設すること。

 介護予防・日常生活支援総合事業の実施にあたり、(1)同事業の目的とされる「生活を支えるための総合的で多様なサービス提供」は、本来すべての高齢者に対して国・自治体が実施すべき。予防給付か総合事業かを選択するのではなく、当面、「要支援」判定を受けた高齢者全員をその対象とし、その上で従来どおり予防給付によるサービス提供も行うこと、(2)総合事業の実施主体はボランティア等の公的な責任を負いかねる住民福祉団体(互助)に依存するのでなく、国や自治体が積極的に財政的・人的な出動を行って実施すること。

 定期巡回・随時対応型訪問介護看護の実施にあたっては、新サービスはあくまで現行の介護保険給付の不足を補うためのものであり、訪問介護における生活援助サービスを充実する等、高齢者の生活自体を支える機能の強化を同時に進めること等を要望した。

 さらに、介護福祉士等の喀痰吸引等の実施が法案に盛り込まれたことに関し、(1)介護現場における医療需要の増加の背景には、国による医療費適正化路線・入院医療費抑制策があり、この政策を見直すことなく、便宜的に介護職の「定義」を変更することは認められない、(2)今回の法改正は保助看法を改正せずに実施できる内容だが、介護職に一定の医療行為を実施可能とすることは、医療職の従来のあり方にも大きく影響を与える。ていねいな意見交換・合意形成がなされておらず、今のまま実施すれば、患者さんやそのご家族の不安を解消できないとして、再検討を求めた。

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