主張/膨らむ医療費の自然増にどう対応するか  PDF

主張/膨らむ医療費の自然増にどう対応するか

 厚生労働省はこのほど、2008年度の国民医療費の概況を発表した。総額34兆8084億円と前年度比2・0%の伸びで過去最高、同年度の診療報酬改定率マイナス0・82%を合わせると、年率3%弱の医療費の自然増が依然続いている。

 この医療費増加には、2つの大きな要因が関与している。ひとつは日進月歩で発展する先端医療である。現在多くの先進医療が、経済産業省や財界からの圧力もあって、急速に保険外併用療養に組み入れられ、本年5月1日現在、第二項先進医療技術は86種類、712件が登録されている。しかし先進医療部分は自由診療の対象であるため、患者負担が大きく膨らむことになる。一方で、大学病院や研究機関からの未承認薬や、新規医療材料、医療機器の早期保険収載を望む声に応えるかたちで、公知申請による審査承認の迅速化も加速している。医療技術の進歩が、難治疾患に苦しむ患者に恩恵を与えることは大変喜ばしいことであるが、現在の健康保険制度の枠組みの中で、いつまでもすべての医療費を賄いえるかどうかは、はなはだ疑問である。

 もうひとつの要因は、団塊の世代が高齢化を迎え、今後益々需要の増える高齢者医療である。2025年には、わが国の人口の約30%が65歳以上の高齢者で占められると、推計されている。いうまでもなく高齢者は受療率が高く、一人あたりの罹病疾患数も多い。また高齢者に多いがんや脳卒中、認知症などは、手厚い医療と介護が必要である。現在、国は後期高齢者医療制度に代わる新たな医療制度の構築を検討しているが、単なる患者窓口負担割合の変更や、介護保険給付への移譲といった小手先の対応のみでは、将来の国民皆保険の存続自体が危ぶまれる。

 これまで医療費増大の二大原因である、先端医療技術と高齢者医療を個別に議論することが、混合診療全面解禁や、後期高齢者医療制度などの無責任な発想の温床となってきた。医療は国民誰しもがいつかは関わる問題である。それゆえその膨張する費用を一体として捉え、誰がどのように公平に負担していくのかを、官僚や政治家にすべて委ねるのではなく、国民一人ひとりが考え、意見していかなければならない時期にきているのである。

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