主張/医療崩壊! この許されざる現状について国民に周知徹底を

主張/医療崩壊! この許されざる現状について国民に周知徹底を

 「医療崩壊」という現状がマスコミ等で報道されている。それと連動してか、モンスター・ペアレントならぬ「モンスター・ペイシェント」という言葉もしばしば見受けられるようになってきた。医療崩壊の原因を一言で語ることはとてもできないが、医療現場の声を聞く限り、このモンスター・ペイシェントも無視できない。患者さんがびっくりするようなことを言ってくることは、しばしば経験することであり、医師として丁寧に説明することは当然であるが、余りに限度を超えているものも珍しくなく、時には医師の「やりがい」さえ奪っていくこともある。結果、一部の医師たちなどはリスクの高いものは避けざるを得なくなり、慎重医療ならぬ、萎縮診療となってしまう。若い医師たちが産婦人科や脳外科などリスクの高い診療科目を避けるようになってくるのも、ある意味仕方のないことかもしれない。

 複数の診療科目をまたぐ救急医療もしかりである。現代の医療はその是非は別として、多岐にわたる専門性に分化されている。しかしながら、救急の現場において患者を目の前にしてそのようなことは言ってはいられない。専門外であっても医師は文字通り必死に対応する。それでも治療結果に不満を持つ患者は、「専門外の医師が対応するとは何事か!」と責め立てることもある。これは治療行為の結果のみに着目しており医療過誤の有無を問わないようだ。ここでも医師は「やりがい」を失いかねない。

 1990年代半ば頃から、マスコミ等の医師・医療現場への批判が日常化してきた経緯が確かにあった。しかし、やっとと言うべきか、この医療崩壊でマスコミは医療現場の窮状をかなり詳しく報道し始めたと思われる。一時的かもしれないが、医療崩壊の報道と並行して、協会へ報告される医事紛争の数も明らかな減少傾向が認められるようになってきた。患者にもいかに医療従事者が大変な思いをしているか、少しでも分かってもらえてきたのではないだろうか。医療安全・医事紛争予防の観点のみからいうと、この医療崩壊の報道は追い風になっている。何と皮肉なことであろう。

【京都保険医新聞第2663号_2008年11月3日_1面】

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