主張/京都市の保健所改革問題 医師が所長である重要さ認識を

主張/京都市の保健所改革問題 医師が所長である重要さ認識を

 京都市内に11カ所ある保健所を廃止し「京都市保健所」を新たに市役所内に設置するという条例改正案が、2月の定例市会に提案され審議が行われている。

 市の説明では、現在市内11行政区それぞれに設置されている各区保健所を、地域保健法上の京都市保健所支所(各区保健センター)に改めるだけで、措置命令、営業停止処分等全市的な判断を必要とする事項以外はこれまで通りの業務を行い、今までと何ら変わるところはないとのことである。

 今回、降ってわいたように保健所廃止が提案された背景には、昨年の新型インフルエンザ対策の教訓が挙げられている。京都のような観光都市は、常に新たな感染症発生の危機にさらされているので、各区に止まらず迅速かつ統一的な全市的対応が必要である。そのため、保健所を一カ所にするという。

 保健所が、戦後の日本人の生命と健康を守る上で果たしてきた役割は、改めて述べるまでもない。15年以上にわたる長い戦争で疲弊し切った国の再生には、まず国民の健康回復が第一目標だった。戦争末期の数年間は食糧不足も深刻で、最も育ち盛りの小・中学生の平均体重が年々低下しているほどであった。住環境もひどく、私たち団塊世代は地域一斉大掃除を懐かしく思い出す。家中の畳を全部表に運び出し、手ぬぐいマスクの“おとーさん達”が竹の棒でパンパン威勢良くホコリ・蚤・ダニ等害虫退治に精を出し、夕方には保健所がやってきて点検のうえ然るべき所へ乳剤を撒いて町内全体の衛生掃除が完了。まさに公衆衛生だった。

 1994年に「保健所法」が「地域保健法」に改正され97年から全面施行されるにつれ、全国的に保健所の改変が進められてきた。京都府でも、12カ所あった保健所を7カ所1支所にすでに再編統廃合している。

 この法律改正の趣旨は、従来の保健衛生行政は結核伝染病対策などに重点がおかれてきたが、少子高齢化社会、慢性疾患中心の疾病構造の変化等の中で、より地域住民のニーズに即した身近な保健サービス提供を目指すとされている。

 昨年の新型インフルエンザの流行ばかりでなく、結核も多い。エイズも増えている。食の安全性、騒音・悪臭・大気汚染などの住環境の悪化、精神保健福祉、難病対策等々、保健所の果たす役割はますます重要さを増している。各区に保健所があり、医師である保健行政の責任者と顔見知りの連携を取り合えることは、その地域の医療を担う開業医にとってとても大事なことである。

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