ワクチンギャップ国会内学習会と厚労省要請

ワクチンギャップ国会内学習会と厚労省要請

任意接種では子どもたちの命守れない

 遅れている日本の予防接種制度の現状と対策を広く知ってもらうことを目的に2月18日、ワクチンギャップの国会内学習会が衆議院第二議員会館において保団連主催で行われた。学習会には、国会議員、議員秘書、マスコミ含め140人が参加。学習会後には予防接種行政の早急な改善を求めて厚労省への要請を行った。京都協会からは垣田副理事長が参加し、学習会で司会を務めた。

国会内学習会
国会内学習会

厚労省に要望を手渡す住江保団連会長
厚労省に要望を手渡す住江保団連会長

国会内学習会で患者らが訴え

総合的な施策の実施局を

 学習会では、国立病院機構三重病院名誉院長の神谷齋氏が記念講演を行った。神谷氏は、日本のワクチン政策について統一的に議論する場がないことから、ワクチン政策を全般的に扱う行政組織が必要だとして、「ワクチン局」の創設を提言し、厚労省が継続性を持ったワクチン施策の実施に努めるべきなどとした。

 その後、患者、家族、臨床医から報告が行われた。

命を守る、それが政治

 「おれんじの会」理事長の松本陽子氏は、子宮頸がんサバイバーとして、子宮を摘出し子どもを産めなくなった苦しみと悲しみを語った。HPVワクチンができて希望が見えてきたものの、平均5万円の負担が必要で、一部自治体で助成があるが、これらの自治体に住んでいない人との間には命の値段に差があることになる。ぜひとも、女性の命、次世代の命を守るために、政治が力にならなければならない、と訴えた。

「あなたの病気は防げた」

 ポリオの会の丸橋達也氏は、不活化ワクチンがなぜ使われないのか誰も答えてくれないと訴え、同会の河野美代氏は、生ワクチンでポリオを発症した次男に「学校のみんなは病気がなくてずるい。自分の病気は運命なの?」と聞かれたとき、「あなたの病気は運命ではない、防げたのだ」という言葉を飲み込み、懺悔したい気持ちを隠したとの心の内を明かした。

諸外国では「過去の病」

 細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会事務局長の高畑紀一氏は、長男が細菌性髄膜炎を罹患した当時、「ごくまれな疾病に運悪くかかり、奇跡的な回復を遂げた、誰も悪くないのだ」と思っていたが、後に昔からワクチンがありWHOが接種を推奨していたことがわかり、長男はワクチンギャップを放置してきた大人たちの不作為の被害者だったと知る。細菌性髄膜炎はワクチン予防が世界標準で、ヒブは20年遅れ、肺炎球菌は10年遅れている。20年のタイムラグで失われた子どもたちの命は600人。後遺症を負った子どもたちは少なく見て1800人だ。ワクチンがあっても任意接種では子どもの命は守れないと訴えた。 経済的負担が障壁に

 ミキハウス子育て総研株式会社取締役の乾浩明氏は、1500の小児科・産科で配布している育児誌『ハッピーノート』でヒブワクチンの特集を行ったとき、大きな話題となったが、結果として意識が高い人ほど経済的負担が多くなることから、子どもに対して母親が自責の念を持たないためにも定期接種化を求めたいと訴えた。

定期接種で患者減らせる

 永寿堂医院院長の松永貞一氏は、定期接種化で、はしかにかかる人が減っていることに触れ、定期接種にはお金がかかるということもいわれるが、例えばベルギーのある病院では、定期接種化するワクチンを増やしたことにより小児科3病棟(1病棟15床)が1・5病棟に減った。このように医師数を増やさなくても、増やしたのと同じ効果を得ることが可能であり、医療崩壊を防ぐには、ワクチンで患者を減らすという発想も必要だ、と述べた。

予防接種行政の改善求め要請

 厚生労働省への要請では、住江憲勇保団連会長より予防接種行政の早急な改善求める要望書(要約を下掲)を手渡した。厚労省からは健康政策局結核感染課及びがん対策推進室、医薬食品局血液対策課が対応し、それぞれの項目について以下のように答えた。

 インフルエンザワクチンについては、対策がうまくいかなかった面があることを認めつつ、有効だったこと、不十分だったこと合わせて検討し、来年に向けての対策を考えたい。

 ヒブワクチンについては、定期接種化には安全性や有効性の評価が必要として、厚生労働科学研究補助金で行っている「新興・再興感染症研究事業」の研究の中で、現在調査が行われており、この結果も待ってからの議論になる。

 成人用肺炎球菌ワクチンについては、インフルエンザワクチンとの併用研究においては、肺炎の急性増悪の頻度は減少したものの、死亡率に有意差は認めておらず、そういった経緯から現在は任意での接種としている。小児用肺炎球菌ワクチンについては、国内で市販がされたばかりであり、現段階においては評価を行うのに十分な情報が不足しており、ただちに定期予防接種に位置づけるのは難しい。

 ポリオワクチンについては、不活化への切り替えについては現在DPTとの混合ワクチンとしての治験を実施。このDPT―IPVが薬事承認を受けた場合には、その有効性・安全性を確認しつつ、切り替えについて検討していきたい。

 HPVワクチンについては、世界では公費負担へ動いているのが事実だが、日本では原因となるウイルスの型が、欧米と比率が違うという印象を受けている。一方で子宮頸がんの検診率は2割ぐらい。予防も検診も大事で、そのバランスも見ながら進めていく。より多くの型のウイルスに効果があるワクチンの研究を継続しながら、公費負担に関しては厚生科学審議会感染症分科会の予防接種部会で総合的に検討していくことになる。

 麻疹については、接種率の全国平均が、第一期94・3%、第二期91・8%、第三期85・1%、第四期77・3%であること。未接種者への公費でのCatch up接種については、まずは予防接種法で定めた接種期間に確実に接種が行われるように今後も指導していく。

 水痘・おたふくかぜについては、予防接種部会の中での、予防接種のあり方全般を見直す議論の中で検討したい。

定期接種への道筋を明確に

 これらの回答に対して高畑氏は、今の日本ではどうすれば定期接種に位置付けられるのかという道筋がなく、ヒブワクチンの現状を教訓として活かして、小児用肺炎球菌ワクチン、HPVワクチン、不活化ポリオワクチンなどで、二度と同じようなことをくり返さないよう求めた。

 神谷氏は、予防接種部会の設置を評価しつつ、そこだけでの議論には限界があり、別に専門的に討議や協議ができる機関の開催を望むこと。予防接種教育についても、きちんと考えること。定期・任意を問わず予防接種と言うからにはフォローアップを含めて国が責任を持って決めていくこと。混合ワクチンを上手に使うこと。しっかりとしたワクチンビジョンに基づいて政策を実施することを求めた。

 またポリオの会からは、今日まで生ワクチンが接種され続けワクチンがポリオ患者を生み続けていることへの大変厳しい指摘がなされ、副反応の認定や患者支援についても極めて不十分な実態を改善するよう要望があった。

◇  ◇

 京都協会・保団連はこれを機に、定期接種化実現のための厚労省・国会議員への働きかけと、自治体・地方議員へは独自助成実現のための働きかけを強めていきたい。学習会のもようは今後、ネット配信も行う。

わが国の予防接種行政の早急な改善求める要望事項(一部抜粋要約)

1、インフルエンザワクチンが不足し大混乱をきたした状況に対する総括を行い、今後の対策について見直すこと。ワクチン接種は公費によって行うこと

2、ヒブワクチンを早急に定期接種すること

3、高齢者の肺炎球菌ワクチンに対して助成を行なうこと。小児の肺炎球菌ワクチンの定期接種化を行うこと

4、ポリオワクチンを経口生ワクチンから不活化ワクチンに早急に切り替えること

5、11〜14歳の女子に対するHPVワクチン接種を公的負担とすること

6、第一期・第二期の麻疹ワクチンの接種率を100%に近づけること。第三期・第四期のついては5年以後も継続し、その接種率を95%以上に高めること

7、水痘ワクチンを早期に定期接種化すること

8、より安全なMMRの導入と定期接種化を行うこと

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