シリーズ環境問題を考える(86)

シリーズ環境問題を考える(86)

困難とは、温暖化を例に

環境対策担当理事 飯田哲夫

 このコラムに既に書いたことですが、環境問題解決の前に横たわる困難の一つは、現在ある利益を未来のために自ずから捨てること、さらにその根拠が、複雑な要因、広範・長期の現象などのため、現状分析、将来予測ともに、科学的に不確定要素を除外できないことです。

 しかし将来、環境が修復不可能な状況に陥る可能性が予想される場合には、現在の利益を犠牲にする決断をしなければならないでしょう。これは科学に基づくといえども、社会的、政治的な決断を下す必要に迫られているということです。このときもう一つの困難−不確実性、複雑性そしてそれに伴う専門性などからくる分かりにくさと、さらにはそれによってもたらされる、あるいはそれらを利用した「今ある利益」を守るための、問題の隠蔽、ごまかしなどに惑わされることなく決断を下す困難もあります。

 例えば温暖化を考えるとき、この問題の規模の大きさ、影響の深刻さ、それによる問題発生後の解決の困難性と不可逆性を考えれば、「いま」決断を迫られている問題ではないでしょうか。しかしなお、問題の不確実性と、解決の困難性を理由に、現状維持、先送り、あるいは必要と思われる行動の軽減・削減を耳にします。

 温暖化が人間活動に伴う変動である「確率」は、2007年IPCC*報告では90%であるといわれています。また、例えば20年に温暖化ガスを1990年レベルと比べて30%削減するという目標値について、経済の減速や生活の豊かさの喪失を理由に無理だといわれることがありますが、これには少し誤解もあるのではないでしょうか。

 20年目標値と同時に50年には50%削減といわれていることからも分かるように、長い時間をかけ、生活の本当の豊かさを見据え、問題解決に役立つ科学技術の発展を目指し、経済・産業構造を(その減速をもたらさないで)変えて、目標を達成しようとしているのを、20〜50%の削減を90年の経済活動レベルの20〜50%削減と考え、それでは経済、国民生活が持たないとの誤解もあるように思います。

 現在の人間が原因をつくり、将来の人間がその結果を負う問題を考えるとき、厳しい現状認識と、将来への豊かな想像力で、柔軟で総合的な対処が可能な社会への変換が求められているのではないでしょうか。

 *IPCC=気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)

【京都保険医新聞第2667・68号_2008年12月1・8_6面】
 

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