シリーズ 環境問題を考える(97)

シリーズ 環境問題を考える(97)

八ツ場ダム建設中止の方向でも自然破壊利権の構造は変わらない

 八ツ場(やんば)ダム(群馬県)の報道がメディアに頻繁に登場し、日本の各地でダムやそのほかの公共工事が自然破壊を明らかに引き起こすのにもかかわらず、なぜ強引に政治や行政がそれを推し進めるのか、常に不思議に感じていました。そこで八ツ場ダムを例にとり、少し偏った視点だという指摘があるかもしれませんが、ダムは不要だという視点でまとめてみました。

 八ツ場ダムの不要性の主なポイントは、利根川に対する八ツ場ダムの治水効果は小さく、一方、利根川は河川改修の積み重ねにより、ほとんどのところは大きな洪水を流下できる能力をすでに有しているので堤防の強化対策を早急に実施することで、八ツ場ダムのわずかな治水効果は意味を持たなくなっている。首都圏では水の需要が減り水余りの状況が起きています。

 1都5県の知事は以上の事実を踏まえて、八ツ場ダムについて合理的な判断を行うべきであるのですが、この八ツ場ダムの建設に関わっている7つの公益法人と13の民間企業には、そのすべてに合計で46人もの国交省の天下りがいる。そしてまた事業の基本方針を決定した検討委員会も、委員長から委員に至るまで そのほとんどが国交省の天下りで組織されており、石原慎太郎東京都知事も名を連ねている。

 言うなれば「天下りの天下りによる 天下りのための公共事業」であり、ダムが計画通りに建設されれば、これらの公益法人と民間企業には巨額の予算が流れ込み、 天下りたちの下にいる県議や町議らにも莫大な「おこぼれ」がある。

 つまり知事さんたちの必死の抵抗もなんとなくこの話を聞くと納得してしまうのです。日本の各地で繰り返されてきた、少なくとも私自身が保団連の活動などで目にした、川辺川ダム、長良川河口堰、諫早湾干拓、そのほかの多くの巨大建造物は豊かな実りのある日本の国土を破壊し、為政者やそれを取り巻く人たちや企業への私たちの血税が流れ込むまさに「闇のトンネル」のようなものだったのでしょう。今後政権が変わったぐらいでこの国の利権の根幹がなくなるとも思いませんが、少しは期待しないと絶望的になってしまいますね。

 また、それだけではなく先日重大な事実が明らかになりました。八ツ場ダムの建設予定地の利根川水系の吾妻川とその支流で、国土交通省が少なくとも93年以降、環境基準を超えるヒ素を毎年検出しながら、調査結果を公表していなかったのである。報告書によると、草津温泉を流れる湯川や、酸性の水質を改善するために設置された品木ダムの放水口、八ツ場ダム建設予定地から約10キロ上流の貝瀬地点では86年度以降、ヒ素濃度が高く、基準が強化された93年度以降は基準を上回っていた。08年度の平均値は湯川で基準の約100倍、品木ダムの放水口で約10倍、貝瀬地点で5倍を記録した。環境省によると、環境基準は政府としての目標値で、基準を超えても国や自治体に法的な改善義務は生じないが、環境基本法は改善に努力するよう義務づけている。しかし、国交省はこうした事態を公表せず、封印していた(朝日新聞より)。

 ヒ素は経口や気管から体内に入ると慢性砒素中毒の症状が発現し、皮膚症状として砒素白斑黒皮症が発現し、長期にわたって摂取すると皮膚がん、末梢神経障害も発現します。国交省は「下流に流れるにつれて他の河川と合流するなどしてヒ素は薄まる。ダムでは沈殿するため、下流の利根川での取水で健康被害の心配はない」としている。報告書を作成した環境検討委も、八ツ場ダム完成後は「(下流部での)ヒ素濃度は下がる」と予測している。ところが強酸性(PH2)の吾妻川の水を中和する品木ダムには大量の汚泥がたまり、それを処分する処理場もほぼ満杯の状態です。このままいくとイタイイタイ病のような、川に毒物が流入して起きる新たな公害の発生も危惧されるところです。日本では過去には宮崎県土呂久鉱山周辺と島根県笹ヶ谷鉱山周辺の地域で慢性砒素中毒の公害患者が出ています。(保団連公害環境対策部員、京都府歯科保険医協会理事・平田高士)

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