シリーズ 環境問題を考える(82)

シリーズ 環境問題を考える(82)

地球に優しい、のはずが食糧危機の原因にされてしまったバイオ燃料

保団連公害環境対策部員
京都歯科保険医協会理事
平田高士

 今年初頭からアフリカをはじめとする世界各地で食糧危機が起きています。その原因の1つが、本来なら地球に優しいエコ燃料と呼ばれこの数年散々もてはやされてきたバイオ燃料の生産の増加といわれています。バイオ燃料とは生物体(バイオマス)の持つエネルギーを利用したアルコール燃料、その他合成ガスのことで、石油のような枯渇性資源を代替しうる非枯渇性資源として注目されているほか、CO2の総排出量が増えないと言われていることから、主に自動車を動かす石油燃料の代替物として注目されています。

 イギリスではCO2排出量250万t削減のために「再生可能運輸燃料義務」(RTFO)が施行され、スタンドなどで売られるガソリンやディーゼル燃料に少なくとも2・5%のバイオ燃料を含むことが義務付けられました(2010年には5%に引き上げられる)。EUは10年までにバイオ燃料の使用の割合を全運輸燃料の5・75%に、20年までに10%にする目標を掲げています。

 その反面、バイオ燃料は気候変動を加速し、生物多様性を破壊し、地域社会を根絶させるという意見もあります。世界第2位のバイオ燃料の生産国(エタノール生産では世界の35%)であるブラジルでは、07年5月にトヨタや三菱自動車がバイオエタノールだけで走る自動車を発売しています。普通車燃料の熱量換算34%がエタノールでまかなわれているのは驚くべき先進性です。

 現在の農業は、化石燃料を大量に使用しています。そのため、バイオエタノールを得るにも、化石燃料が必要です。エネルギー効率という観点で見ると、1という化石燃料を投入した場合に、得られるバイオエタノールのエネルギー量を次のように推定しています(表・「日経エコロミー」より)。つまり、米国でトウモロコシを原料として作ったエタノールは1・3で、ガソリンをそのまま使った場合とほとんど変わらず、それに比較すれば、ブラジルでサトウキビから作るエタノールは、かなりエネルギーのゲインがあるのです。なぜならサトウキビは、あまり化学肥料などを使わないでも育ちますが、米国中西部のトウモロコシは、地下水を電気でくみ上げ、GPSを付けたトラクターが化石燃料を使って農地を耕し、化学肥料をかなり大量に使用しているからです。

表 化石燃料を1投入したときに得られるバイオエネルギーの量

原料、国 エネルギー量
サトウキビ、ブラジル 7.9
テンサイ、英国 2.0
トウモロコシ、米国 1.3
トウミツ、インド 48.0 
トウミツ、南アフリカ 1.1
トウモロコシの葉など、米国 5.2
ムギワラ、英国 5.2
バガス(サトウキビ)、インド 32.0

 健康の面から見ても必ずしもバイオ燃料はよい点ばかりではありません。調査結果によれば、もしも米国内の全自動車を、ガソリン燃料からバイオエタノール燃料「E85」(エタノール85%/ガソリン15%の混合)に切り替えた場合、排出ガス中のCO2量が大きく削減されるほか、大気中のベンゼンおよびブタジエンは減少します。しかしながら、他の発がん性物質のホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドが、大気中に増加してしまうことが判明しています。また、地域によってはオゾン濃度が高くなり、光化学スモッグなどの環境問題が、ガソリン燃料の使用時よりも悪化してしまう危険性が指摘されています。

 また、アフリカ諸国の政府はバイオ燃料イニシアティブを通してヨーロッパが欲している燃料を提供することによって、自らの国を貧困から救い上げることができると期待していました。同時にアフリカ自身のエネルギー安全保障を改善することができると考えています。それで、政府がたくさん投資家達を支援して、バイオ燃料の政策を進めてきています。

 しかし、バイオ燃料生産の盛んなブラジルや、アジアなどでも発生している、熱帯雨林の破壊やエタノール効果による穀物価格の上昇、遺伝子組換え食品導入の問題があります。ウガンダやタンザニアなどでもかなり大規模なバイオ燃料生産計画が進んでいます。エチオピアもかなり熱心に進めていますけれども、国内の飢餓問題が解決できないまま行われているので、将来的にかなり危険な状態です。国土の中で新たな商品作物としてのバイオ燃料が農地を次々と奪っていく現状や、食糧を自給できずにそのほとんどを輸入に頼っている国々で進んでいる食料危機が、アフリカだけでなく日本や中国などの国でも広がっているのです。エネルギーや環境問題の切り札として期待されていたバイオ燃料はあらゆる角度から世界中に貧困の拡大と飢餓をばら撒いているという事実はとても皮肉で見過ごすことはできません。

【京都保険医新聞第2647号_2008年7月14日_4面】

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